スタバが満席だったので、電車で本を読むことにした。下り方面に乗る。車内はあたたかく、リズムがあり、景色も変わるので読書に向いている。頭木弘樹『食べることと出すこと』を読む。端の座席だとドアが開くたびに風が入ってくるので中央の席がいい。車窓から川が見えたので降りて上りに乗りかえた。本を読み終え、ちょうど乗った駅で降りようとすると、定期券内なのに構内利用料140円を払わされてしまった。
降りたのが17時半頃で、空腹だったが何も食べたくない。この土日は福井さんが休養し、雨も降って寒く、転職のことも不安でどうしようもなく塞いでいた。気落ちすると何を食べればいいのかわからなくなる。食という営みから拒絶されているような気になる。チェーンの中華屋の前で、タンメンのディスプレイを見ながら立ち尽くした。野菜をとった方がいいが全然食べたくない。駅の逆サイドに行ってマクドナルドを見るが、あんなに脂っぽいものを入れたら間違いなく後悔する。そうやって何を食べたいのかわからないままふらついていると、この町に昔からあるが最近改装したというような店構えの定食屋が目に入ってきて、店頭のメニュー表にあるきつねうどんが食べたくなった。引き戸を開けるとまだ早いからか客はおらず、おかみさんらしき店員さんに好きな席どうぞと言われる。フラットで張りのある声にほっとする。きつねうどんを頼んだが、メニューにあったけんちんうどんや京風にしんそばにも心惹かれた。店内に駅前通りの写真が二枚貼ってある。1966年の写真と、同じ構図の2020年の写真。もう60年近くやっているようだ。再開発はされていないのか道路と建物の構図は変わらないが、ビルが高くなり空が狭くなっていた。テレビから流れる大相撲をBGMにきつねうどんを食べた。出汁が甘くあたたかい。長ネギや小松菜、かまぼこも入っていて、はなまるうどんに慣れた身にはとても贅沢に感じられた。素朴に、こういう体温の感じられる店にお金を落とすのも大事だなと思った。チェーン店しか選べなかったら、食べることによってなんらかの自傷行為をしていたと思う。