4月15日

ウメヤ
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 新居の内見が終わったのは14時前だった。最寄駅に戻る道中でランチを探すことにする。行きしなに何軒かラーメン屋を見かけたがあまり気分ではなかった。別の道を選ぶ。老人が道端にへたり込んでいて、二人の警官が背中をさすり顔を覗きこみ話しかけていた。

 前方突き当たりに王将が見えたが、そのすこし手前にも町中華らしき赤いのれんがある。店頭の食品サンプルが置かれたケースは数十年手が加えられておらずガラスもサンプルも暗く黄色くなっており、日に焼けて色が薄くなった赤いのれんの向こうからはかすかな人の気配と油の匂いがする。のれんをくぐるとカウンターとテーブル一台の狭く薄暗い店内に男性客が二名、厨房には痩せた小さい女将さんと女将さんが痩せているぶん恰幅の良い料理人がいた。もともと真っ赤だっただろう濃いピンク色の座面の丸椅子に座り、チャーハンを注文した。550円。他のメニューも最高でも850円と普通の飲食店よりだいたい200円ほど安い。

 誰も喋らず、テレビの音と中華鍋とおたまがあたるカンカンという音が一度もリフォームされていなさそうな暗い店内に響く。冷蔵庫には幼さののこる氷川きよしのブロマイドが貼ってある。女将さんが料理人に一言も喋らずラップを渡したりしていて、この二人は親子で、初代店主は女将さんの夫、料理人の父親なんじゃないかと想像する。

 紅しょうがの乗ったチャーハンは見た目地味だったが刻んだかまぼこが入ったりしていて美味しかった、美味しかったというか、油をふんだんに使っていて有無を言わせない感じだった。食べている途中にテレビではドラマ「コードブルー」の再放送が始まり、戸田恵梨香のアイシャドーが濃く時代を感じた。2020年代を思わせるものが一切ない空間のなか、油で重いチャーハンを口に運び続けた。もちろん支払いは現金のみで、1050円を渡して500円をお釣りでもらい、2024年に戻ることができた。

@umeya
日記を書いています。 過去日記(2023.10.1〜12.25) umeya.notepin.co