20時がきらいだ
重ねた皿や湿度や短さ
かれらの間合いや足取りがきらいだ
書きかけの日記や
速記術の筆跡は好きだ
子守り唄が好きだ好きだ
雷光
半端な団らん
二週目のない回転木馬はきらいだ
芥子の乾性油が
グリザイユが
二点が透視が図法がきらいだ
長文メールとおんぶと澱粉
シリアルとシニカルとシーシャバー
訳書と役者と限度と原書
みんなきらいだ
月光と原稿と蓮華と解脱と月刊誌
尾の長い軒先の子猫とその家族みんな好きだ
丸襟ニットが好きだ好きだ好きだ
少年漫画の
敵組織が好きだ主人公の正義感はきらいだ
かれらの夢
あるいは野望
あるいは熱い仲間あるいは寒い科白
または偽善や詭弁がきらいだ
今にも歩き出しそうな動物剥製が好きだ
今にも走り出しそうな最終電車はきらいだ
沈黙の発車標
酩酊状態の老若男女がきらいだきらいだ
午前四時に南4局4本場
裸単騎でノーテン宣言する親番がきらいだ
辛子は好きだ裸足も好きだし花火はきらいだ
梨や柿は好きだ
海も。
(岩田宏「感情的な唄」に倣って)