そういえば、ダンサーと呼ばれる人びとのことをあまり知らない。音楽室の後ろにずらりと並んだ音楽家たちや、事あるごとに耳に入ってくるクラシック音楽と違って、ダンスを見る機会はなかなかなかった。一瞬だけ習っていたバレエも含めて。小さい頃に一度だけ親が白鳥の湖を観に連れていってくれたが、ずらりと並んだ人が揃って踊るのがなんだか怖くて、それきりだった。どうして習っていたのかもあまり覚えていない。身体がやわらかい方がいいだろうと思った母の意向だったような気もする。習い事を辞める時は自分で言うという方針の家だったので、あまりに厳しい先生に辞めたいと言いに行き、何を言っているかわからないとつっぱねられて泣きながら帰ったことだけ覚えている。その後ほどなくして辞めたはずだけれど、どういう流れでそうなったのかはあまり覚えていない。
そんなわけで、踊りの世界とはすっかり遠ざかっていた。書籍や漫画で出てくるので切れ端のように名前を覚えているだけ。マーゴ・フォンテイン、イサドラ・ダンカン、ロイ・フラー。私が知っている数少ないダンサーたちはそれで全部だったけれど、その踊りは観たことがなかったなとふと思って、YouTubeでいくつかの動画を見ていた。まだその良し悪しを言葉にするほどはダンスのことを知らないけれど、目を惹かれた。最近絵は少しだけずつ言葉を覚えてきた。ダンスのことも、もう少し言葉にできるようになったらいい。そうしたらまた少し世界があざやかになる気がする。