一番好きだった友達がくれたハンカチがあった。黄色いハンカチ。ネコバスの顔が刺されている、かわいくて大好きなハンカチ。贈り物にありがちなオーガンジーの巾着に入ったそれを、わたしは出さずに置いていた。出して使ってしまうのが惜しく感じられて、大切に大切にとっておいた。母親はそれを袋から出して他の有象無象のハンカチと一緒くたにした。今日そのハンカチがリビングにあった。新品同然にきれいだったのにふちどりの糸がほつれて伸びていた。湿っていた。使われた後だったどう見ても。「使った?」と聞いたら、「だから洗濯機に入れておいたでしょ?」と言われた。洗濯機には入っていなかったしわたしの言葉の意味を微塵も理解していない。わたしの大切なものの平穏を乱したどころか勝手に使ったのかと聞いたのに。わたしがそれをもらったときいかに喜び眺め袋の上から触るだけで嬉しい気持ちに満たされたのか、あの人間は少しも知らずまた知る気もないのだろう。
ハンカチは切って、紙に包んで、糸で結んで閉じて捨てた。あれが使ったものを使う気にはなれなかったし、もう終わりになってしまっているなら自分で終わりにしたかった。わたしがわたしのものとして扱える行動のすべてがもうそれだけだった。本当に腹が立つし悲しいが、諦めも同じかそれ以上にある。というより母親への感情は全部諦めを前提としている。言葉が通じない。お互い違う世界に生きるべき生き物だった。本当に憎しみしかなくなってしまったので、早く死んで綺麗な思い出にでもなってくれないだろうか。