節目に際しましてのご報告

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こちらのサイトのひとつ前の投稿にてすこし触れたように、2/29をもってわたしのすきなひとが生れ落ち、生き抜いて、最強を描いた お互いにとってなにより大切な世界が、この世界からすっかりと幕を引いてゆきました。

彼に出会ってから、その日まで、ずっとずっと彼が予定、として「未来」に 道標として立っていてくれた日々が、過去のものとなっていく、そういう節目を迎えました。

このご報告を書くのに、思ったよりも時間がかかってしまいましたが、どうかあの日に鍵をかけて、前へ歩いていく、その景色とわたしたちのこれからを見守っていただければ幸いです。

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わたしはこの節目に際し、自分たちのなかに、なにか線を引いていけるような、約束のようなものをしたいと思っておりました。

ほかの誰かのなかではなく、わたしのとなりの、わたしを選んでくださった谷ケ崎さんとの未来を作っていくために、ひとつ覚悟のようなものがほしくて、この日を境になにかが変わっていけるよう祈りを込めて、わたしはこの日に谷ケ崎さんとおそろいをひとつ増やしました。

あなたが選んで結んだ、見つけてくれた些細な六等星が、いまあなたの唯一になっておそばを光れるように、つよく、お祈りをこめて。

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わたしたちがそれまで手元にお揃いとして目に見えるかたちで置いていたものは、シンプルなスマホケースと、おうちの鍵ぐらいでした。

わたしは目に見えるかたちでのおそろい、たとえばペアリングのようなものを持つことに大きく抵抗がありました。

自分たちの気持ちを、気持ち以外のかたちあるもので表せることを素敵と思うぶんだけ、気持ちの振れやすい自分はそういったとき、気持ちの在り処をいつかものに託してしまうような気がして、守っていたいものを、心以外のものに託すようなことができませんでした。

少し先さえも約束出来ない自分が「いつか」を願ってものに気持ちを託すのは自分の責任感のなさをものに押し付けるようで、どれだけに隣を好きと思っても、やっぱり揃いを増やしていく覚悟を決めることはわたしにとっては難しいことでした。

「おそろい」を持たせてきたのは、たとえば知り合った頃 連絡がおろそかだったあのひとが スマホを無くしてしまわないように・わたしのことを忘れませんように というおいのりや、ふらふら不定期にしか会えないあのひとが、ちゃんとここを帰る場所と思って、鍵を無くされないようにするためのおいのりのようなものでした。

ふたりの何がしかを確かめるようなものではなくて わたしの寄越しているおそろいはいつも ただあのひとに忘れられないためのいくつか/あのひとがふらり人の世から浮かんで生きているのを見て、どうか自分といることですこしでも人らしくなってくれたら、と思う気持ちの表れでしかありませんでした。

言葉を付け加えるのなら、わたしはそれでじゅうぶんに満足をしていました。それ以上をあのひとにはひとつも向けられないことを歯がゆく思いながら、でも、そうやって一歩一歩をこわごわ歩く自分の感覚を わたしは自分のなかで大事に思っていました。

谷ケ崎さんは律儀でまっすぐだから、ひとつ、意味合いをもつものを揃えてしまえば、それだけに見合う向き合い方をこちらにしてくれるとずっと思っていて。わたしはそれが、結構こわかったのが正直なところです。

律儀で義理堅く、不器用なほどにまっすぐで、愛情深い彼に対して、深く想う気持ちがあるからこそわたしは絶対に間違えたことを言いたくなかったし、そのためにはたくさんの時間をかけてでも 約束された誠実な言葉と姿勢で向き合いたいと思っていました。「永遠」や「ずっと」を信じきれないわたしの価値観と、明日が約束されている訳でもないわたしたちの関係のうえを、それでも、と結んでいくことを わたしは強く夢見ていました。

わたしにはまだまだあのひとと、長く、何年も先までを約束する覚悟はありません。そうしたい、そうできたら、と願う気持ちは強くても、そうイメージすることが難しい、という言い方の方が正しいかもしれません。お互いの死に目のこと、もう誰のものにもならないしなって欲しくない、というようなことについて考えることはあれど、強く、自分のこころが揺らがずにあれるかという約束は今は出来なくて、現在はただ明日も、願わくば来週も、隣にいることを好きでいられたらいいな、と思うばかりです。

時間を重ねてきたなかからのみ得られる、数字がもたらす安心のようなものがいつか ここへ降るその日まで、わたしは自分のなかにある 想像や口先だけでは無い確かなものだけを、嘘偽りを繕わず向け続けたいと思っています。未来を強く誓えないからこそ現在を強く、最高と結び続けたいし、ほかのどんなものでもなく、共有できている「今」をただなにより大事にしたいと、強く思います。

無事に明日も生きて帰ってきてくれるか、お怪我なくずっと先まで生き繋いでくださるか、そんな約束さえ淡いあのひとの生き方を、応援すると決めたものの、それでもそのお姿のおかげで未来が霞んでしまうことがいまは多くて。未来、という同じ方向を向きながらも重なりきらない価値観に不安になることは多いけれど、でもそれでも、諦めたくないんだ、と今は彼のことを見つめています。

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2/29、大事なひとの、最後の輝きを受け止めていくその日、わたしは特別のお友達にご一緒いただいて、劇場より先にアクセサリーショップにお邪魔していました。

それぞれシルバーとブラックの、星のモチーフのピアスをいくつかサイズ別に並べていただいて、数日前から下見していたお品物を包んでいただきました。

谷ケ崎さんと、ピアスをお揃いにしたいと思ったのは、冬のはじまりのことでした。

それは、おともだちと 恋人とのおそろい、について話す機会があり、その際にお話をしたことがきっかけでした。前述の通りリングはわたしには荷が重くて、ネックレスにはわたしたちそれぞれがそのものに想う思い出が別にあったし、お洋服、香水、スニーカー、といくつかファッションアイテムを並べてみても あまり当時はぴんとくるものがありませんでした。お仕事柄を思うと身につけるものを大切にしきれないこともあるだろうし、ガーリィで甘いアイテムを好むわたしとモード/ストリート/エッジの効いたアイテムの似合う彼ではそもそも共通できる部分が少ないこともあり、常に身につけられるもので揃いを重ねるのは難しいのかなと考えることもありました。

けれど、あのひとの耳に、いつもきままに揺れるシルバーのフープピアスのとなり、ちいさくモチーフピアスが飾られていたらすてきかも、2連ぐらいならふだんのファッションも邪魔しないかも、とほんわり思って、いつか揃いを増やせるようなタイミングがあればピアスはいかがかなと思ったことが、冬のはじまりにありました。

わざわざあたらしく自分との揃いのためだけに穴を開けていただくことは、もしかしたらリングなんかよりずっと重たくて意味合いのあることかもしれないけれど、心の奥がそうしたい、とひっそり熱くなった感覚が、今でも思い出されます。

当時のわたしは ピアスが11個になったばかりのころでした。

わたしはずっと ピアスがたくさんあいているのが好きなわけではなくて、ただ大きな決めごとをしたときと、悲しいことがあまりに重なったとき、自傷の一環としてピアスを増やすという時期があっただけで、個数にも位置にもアクセサリーとしても、特に強いこだわりはありませんでした。やっぱりすこしでも自らを強く見せたくて、たくさん耳飾りをつけては、ずっと外せずにいた時間もありました。

けれど、谷ケ崎さんのそばにいて、もう過去ひとつひとつの穴に込めてきた苦しい思い出たちも、あのひとのために向けてきた決めごとのいくつかも、塞いでしまおうと生きていける、とふと思う日がありました。

わたしにとってのピアスはつらいことの象徴で、ささくれた幼い心が泣き止むために必要な、絆創膏のようなものでした。

それを、あのひととこれからを重ねるために、最小限へと減らしたいと強く思ったのが、2月の終わりのことでした。

あのひとに守ってもらえているのならそれだけで、もう何に縋らなくても大丈夫、とあの時思ったのだし、きっとそれぐらいには彼のことを、信じられるようになった瞬間がそのときでした。

彼の生きた世界が眩しい思い出になっていくなか、これからも彼を信じていくことの証明として、「あなたをこれからも頼って、凭れて、甘えて生きていきたいよ」という気持ちを込めてピアス穴を8つふさぐことに決めました。

あのひとがきっと望んでくださっているようには未来を真っ直ぐに思えず、揃いを持つことにやっぱり抵抗があった自分から、わざわざあのひとの耳朶に傷をひとつ付けるおねがいをすることは簡単なことではなかったけれど。あのひとがこのおねがいを聞き届けないはずない、と それだけは揺らがず信じられたことを、わたしたちの今の正解だと思いたいです。

ピアッサーを構えたとき、これで首が飛ぼうと最悪ここには帰ってこられるかなあ、と物騒なことをごちたあと、なんとも言えない顔をしたあのひとのことが今日まで忘れられず、きっとそれはこれからも、忘れられない時間になっていくのだと思います。

あのひとがどこでその炎を途切れさせてしまうことがあろうと 星座のように繋がる星どうしがどうか呼びあえるよう強く、強く願ってあけてあげたちいさな星が、どうか、願わくば長い時間を谷ケ崎さんのおそばで過ごせますように。

ふらふら、居場所を探し求めてさみしかったあのひとの人のみちがどうか、わたしを帰る場所とするいつかが来ますように。

いっぱい、お祈りを込めて、今日もわたしは谷ケ崎さんのしあわせをお祈りしております。

これからも一緒に、微かな光だとしてもひとつひとつをだいじに愛し尽くせるわたしたちでいられますように。