韓国のSF短編集、『わたしたちが光の速さで進めないなら』を読んだ。短編集だがどれも面白く、読み応えがあって良かったな。
短編それぞれに直接の繋がりはないが、女性視点で語られる話が多いところは特徴だった。また、短編の中で視点が移り変わるようなものも多かった。語り手の母や祖先、その他既に亡くなった誰かの行動や事実関係に思いを馳せて、その後で当人がどう思っていたか、なぜその行動に至ったかが語られていくような構成だ。SF小説なのでSF的ギミック、思考実験的な面白さも大いにあるが、感情面を描くことにも重点が置かれているような気がした。
短編は全部で7つ。印象に残った短編の1つが、「共生仮説」だ。ある天才的なクリエイターが、生涯に渡って一つの架空の惑星を題材とした創作物を作り続けた。彼女の創作物は人々を魅了し、人々に懐かしさを感じさせた。彼女の死後に発見された惑星が、彼女の描いた惑星と酷似していることがわかり……という話。なぜ彼女は遠く離れた、知ることのできないはずの惑星について描けたのか?なぜ我々はその惑星に懐かしさを覚えるのか?という謎に興味を惹かれる。明かされる解も、実際にある現象をうまく関連づけているのが見事だった。1つの架空の世界を舞台に創作を続けるクリエイターというのは実在するが、実際頭の中はどうなっているのか、なぜそこに人が魅力を感じるのかは(この短編のオチとは別に)個人的に気になるところだ。
もう1つ挙げると、「感情の物性」。これは、1つ1つの感情そのものが造形化され、その感情を感じ取れるものとして販売され、ブームになるという話だ。この短編で主人公が抱く疑問は、「(仮にプラシーボ効果だろうと)嬉しい感情なら欲しがるのもわかるが、ネガティブな感情を手元に置きたがる人たちがいるのはなぜか?」というもの。短編内では物理的に所持していることの作用についても色々語られていて、なぜ人はデジタルデータがあっても物理的なものを欲しがるのかにも通じる話だなぁと思った。
SFとしての難解さも特別感じられず、誰にでも読みやすい短編集だと思う。同じ作者の長編も読んでみようかな。