今年の2/17に発売した小説『咲良は上手に説明したい!』を読んだ。読みやすくて面白かったので、結構オススメです。
ジャンルとしては、いわゆる「お仕事もの」。主人公の石川咲良が、浅倉響という女性と出会って「テクニカルライター」という仕事を知り、浅倉を師として自らもその道を志していく物語だ。
テクニカルライターは、主に製品のマニュアルを作る仕事。複雑な仕様の製品を対象に、正確性を保ちつつ使用者にとってわかりやすい説明をしなくてはならない。そういう仕事もあることは想像できるが、それを題材とした作品は見たことがなかった……目の付け所がいい。実際、著者はテクニカルライターも兼業しているという方だという。
お仕事ものだが固い感じではなく、主人公咲良の語り口の愉快さもあって雰囲気は明るい。歴史マニアだったり、身長が高めだったりとキャラも立ちつつ、目線は素朴で親近感が湧きやすい造形。最初は浅倉への尊敬100%の新入社員という感じだが、仕事をこなして段々戦力となり、浅倉とバディのようになっていくのが良い。咲良は中途で同期はいないが、浅倉の元同期たちとの関係性なども描かれていく。
咲良は完全未経験での転職なので、仕事の導入も丁寧。序盤は「ゴミの分別」のように軽めの話題から始まるが、中盤にはAEDやベビーカーと言った人命にも関わる題材が出てきて、文書作成にも緊張感も生まれていく。マニュアルを書くには当然ながら対象について熟知する必要があるので、そういう知識欲のある人には特に面白く読めるのではないかと思う。
テクニカルライターについて、作中での浅倉の台詞が印象的だった。
「テクニカルライターの仕事って、ライターの中でもちょっと特殊でね。小説とかエッセイみたいに、読者が読みたいものを書くんじゃないの。読者が読みたくないものを書くの」
滝沢 志郎. 咲良は上手に説明したい! (p.52). 株式会社PHP研究所. Kindle 版.
確かに製品を買ったときにしっかりマニュアルに目を通すのは活字中毒者くらいで、最初さっと眺めるならいい方、大抵は何か起きたときに読むくらいだろう。そんな中でユーザーにとって大切なことを伝えるためにどう工夫するかが頭の使い所であり、それを考える過程が作品の面白さにも繋がっているのが良い。仕事でも趣味でも、文章で人に何かを伝える機会のある人は本書の内容を役立てられるかもしれない。
名前だけ出た人物、登場するが活躍の機会はない人物もいたりして、続編も予定されていそう……な気がする(期待)。