
夢中で読んだ。
日常の描写だけでおもしろく、このまま何も起きずに終わってもいいなと思いながら読んでいた。
本を読む。小説を読む。読んでいる間は物語の中にいる。読んでいない時は泥の中のような気分でいる。大好きだった本を読めば読むほど自分が人として駄目になっているように思えた。小説を読むことが頭の中で逃避や慰めという言葉と繋がってしまうのが辛かった。そうでないと思いたいのにその根拠が見つけられない。無意識にハッピーエンドの本を探してしまっていた。小説をまっすぐ見られなくなっている自分に気づいて一人で泣いた。けれど読んだ。
毎日生き、毎日読んだ。小説を読むことが生きることだった。
—『小説』野崎まど 著
たいしたこともせず、ただ生きているだけの自分をうしろめたく思う。
受けとるばかりでなにも返せない。
俺は書きたくない。
俺は。
読みたいだけだ。
駄目なのか。
それじゃ駄目なのか。
読むだけじゃ駄目なのか
—『小説』野崎まど 著
「読むだけじゃ駄目なのか」という言葉は、「ただ生きることは許されないのか」という感覚を含む。
眉間に皺をよせていたら、いつのまにかファンタジーの中にいて、宇宙の話がはじまった。よくわからないけどぽろぽろ泣いた。
本を閉じたあと、おだやかな幸福感に包まれて、もっと本を読みたくなった。