腰痛ジプシーの本

ure
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高野 秀行さんの『腰痛探検家』を読んだ。腰のいたみについて書かれたエッセイだ。

いくら通っても治らない整体通いを「もう、やめよう」と思うのに、先生の笑顔に負けて「もうちょっと続けてみよう」となってしまう。ダメ男と別れられない女子のようだと嘆く。

とある整形外科では「これを一生やってください」と言われ、腰痛運動のパンフレットに「一生」と殴り書きをされる。ひどすぎて笑ってしまった。

ガンも治すカリスマ治療師がでてきたあたりでおかしくなってきて、筆者はしだいに「自分は病気だ」と思いこみはじめる。

最終章で変わり者の整形外科医(あだ名はブラック・ジャック)と出会い、思いこみがとけていくシーンはとてもよかった。

「椎間板ヘルニアとか脊柱管狭窄症とかいろいろ言われているんですが……」と言いかけたら、急にブラック・ジャックの目の色が変わった。

「椎間板ヘルニア?そんなの、ないですよ。どこにもない」

—『腰痛探検家』高野 秀行著

なにを言っても身体に異常はないと言われ、筆者はなぜかキレる。

この二年、私の生活=腰痛である。腰痛の否定は私自身の否定でもある。頭にきて大声を出してしまった。

「とにかく、腰痛はあるんです!心因性の疑いを確かめたいんです!」

先生も負けずに声をあげた。

「心因性って何?」

「何って……よくわからないけど、精神がおかしくて身体に異常が出ることでしょ!」

「あなた、文章を書くんでしょ?クリエイティヴな職業の人はみんな、頭がおかしいですよ。おかしくないといい仕事なんかできない。医者も同じ!」

—『腰痛探検家』高野 秀行著

頭がおかしいことまで肯定されて、憑きものが落ちたように力が抜ける。

ブラック・ジャック医院をあとにし、商店街を歩くと、夕日に映る景色や人のざわめきが美しかった。

—『腰痛探検家』高野 秀行著

筆者はこのあと「心因性腰痛」ということで心療内科に通うようになる。しかし、心療内科医はわざとじゃないかというくらい冷たくて不親切だった。

筆者が心因性腰痛の原因をたずねるとこう答える。

「あなたは腰痛そのものに執着しているの。心因性腰痛の人は腰痛のことばかり考えているの。それがいけないの」

「…………」

「はっきり言えば治そうと思うのがいけない。でもそう言うと、みんなここに来なくなるから言わない。つまり、あえて情報を与えないようにしているわけ」

—『腰痛探検家』高野 秀行著

最終的に筆者は増え続ける薬にキレて、ゴミ箱に薬をぶち込み、プールで泳ぎまくって完治する。

最初から最後までコメディ調で書かれているので笑いながら読めるけれど、とんでもない闘病記だ。わたしだったらカリスマ治療師のあたりでつまづいて帰ってこられなくなっているだろう。

本を読み終えたあと、部屋を片付け、リングフィットを起動して『腰痛改善セット』を2回やった。少し動いただけで息が切れてなさけなかった。

@ure
どうぞごゆっくり