西林 克彦『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』

ure
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公開:2025/6/11

西林 克彦さんの『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』を読んだ。

「読んでもわからない」と感じるとき、頭の中ではなにが起きているのか。その仕組みが丁寧に説明されていた。

大事なのは「スキーマ」「活性化」「文脈」の3つ。

スキーマ

スキーマとは、「過去の経験や知識からできた、頭の中のパターンや考え方の型」のこと。

人は、毎日の生活の中でいろんなことを経験して、「こういうときは、だいたいこうなる」というルールみたいなものを覚えていく。これを認知心理学では「スキーマ」とよぶ。

たとえば、外国の映画を見たときに「これは先生っぽい人だな」「この場所は学校だな」とすぐにわかるのも、スキーマがあるから。

活性化

活性化とは、スキーマが頭の中で動き出すこと。

たとえば、空が暗くなると「雨が降りそうだな」と感じて、傘を持って出かける。それは、これまでの経験が頭の中で思い出されて、「どうすればいいか」がすぐにわかるから。

こうしてスキーマが働き始めることを、「スキーマが活性化する」という。

文脈

文脈とは、「ある言葉や出来事が、どんな状況の中で出てきたか」を意味する。

たとえば、「バットを見た」と聞いたときに、

野球の話なら、「バット=野球の道具」

動物の話なら、「バット=コウモリ」

を思い浮かべる。

このように、同じ言葉でも、まわりの話の流れによって意味が変わることがある。

この「まわりの流れ」や「話の背景」のことを、「文脈」という。

ざっくりいえば

人は、頭の中にある知識の型(スキーマ)を、文脈に応じて呼び出し(活性化し)、それによって物事を理解している。

では、スキーマや文脈がないとどうなるか。

スキーマがないとわからない文の例

新聞の方が雑誌よりいい。街中より海岸の方が場所としていい。最初は歩くより走る方がいい。何度もトライしなくてはならないだろう。ちょっとしたコツがいるが、つかむのは易しい。小さな子どもでも楽しめる。一度成功すると面倒は少ない。鳥が近づきすぎることはめったにない。ただ、雨はすぐしみ込む。多すぎる人がこれをいっせいにやると面倒がおきる。ひとつについてかなりのスペースがいる。面倒がなければ、のどかなものである。石はアンカーがわりに使える。ゆるんでものがとれたりすると、それで終わりである。

—『わかったつもり:読解力がつかない本当の原因』西林 克彦 著

この文章について、「凧を作って揚げる」と聞けば、たいていの人はすぐ意味がわかる。けれど、凧についてのスキーマが頭の中になければわからない。

文脈がないとわからない文の例

風船が破裂すれば、なにしろすべてがあまりに遠いから、音は目当ての階に届かないだろう。ほとんどの建物はよく遮蔽されているので、窓がしまっているとやはり届かないだろう。作戦全体は電流が安定して流れるかどうかによるので、電線が切れると問題が起きるだろう。もちろん、男は叫ぶこともできるが、人間の声はそんなに遠くまで届くほど大きくはない。付加的な問題は、楽器の弦が切れるかも知れないことである。そうすると、メッセージに伴奏がつかないことになる。距離が近ければよいのは明らかである。そうすれば、問題の起きる可能性は少ない。顔を合わせている状態だと問題が少なくてすむだろう。

—『わかったつもり:読解力がつかない本当の原因』西林 克彦 著

読んでもぜんぜんわからん。でも、絵を見てからもう一度文章を読むと、わかるようになる。

(Bransford & Johnson, 1972)

この文章は「風船」や「スピーカー」についてのスキーマだけでは理解できなくて、「スピーカーを風船で釣り上げている」という文脈を知ることではじめて理解できる。


こんな風に、わからないことがわかるようになるプロセスを、実際に体験できるのがおもしろかった。

どういうときに「わかったつもり」になるのかも体験できる。

わかるとすっきりするから、ついわかりたくなるけど、わからないものをわからないままでいる力をもっとつけたいなと思った。

@ure
どうぞごゆっくり