小説やエッセイの食べものは大好きなのに、実際の食べものとなると興味が湧かないことがある。毎日何を食べるか考えるというのはなかなかに脳のリソースを使うことで、元気なとき、とくに自分が積極的に買い物に出かけているときは苦ではないのだが、元気がなく引きこもりがちになると献立を考えるのも嫌になってくる。毎日決まったものを食べたい。自分のお弁当も一時期おかずを考えたくなくて、レンチンしてだしの素とポン酢で和えた白菜と焼き魚をタッパーに入れ、おにぎりを二つほど握っていた。気に入っていたが汁が漏れるのでやめた。
最近は朝におにぎりを二つほど握り、そのうちの一つと味噌汁を食べるようにしている。おにぎりを握る元気もないときはグラノーラを食べている。朝はお腹が減ってないことも多いので、そのときは味噌汁や牛乳だけ飲む。昼には朝握ったおにぎりと味噌汁、油揚げの中に納豆と小葱を詰めてトースターで焼いたはさみ焼きを食べる。冷蔵庫にヨーグルトやもずくがあればそれも食べる。晩ごはんは唯一可変で、その日に食べたいものを食べる。
柚木麻子のエッセイ『とりあえずお湯わかせ』では、「これさえ朝摂取した後は、どんなに不摂生しても大丈夫と思えるような一皿があると、その日一日が気楽だ。」「つい何もかも投げ出したくなるような季節、これだけは、の一線を決めて守っておくと、なんだかうまくいかなかった日、雪崩のような落ち込みの防波堤になってくれるからありがたい。」という文章がある。
わたしにとって、油揚げの納豆はさみ焼きは安心の塊だ。油揚げ一枚と納豆一パックで14グラムほどのタンパク質がとれる。納豆には食物繊維やビタミンも入っているし、食べすぎて胸焼けすることもなければ血糖値が上がりすぎることもなく、これを食べていれば安心、と思うことができる。値段も油揚げが一枚20円ほど、納豆が一パック25円ほどなのでかなり安い。値段にも安心することができる。なおかつ、キッチンバサミとトースターでの調理なのでまな板と包丁とフライパンを使わないのに、料理した感覚になれる。あとおいしい。
一番落ち込んでいる時期は料理どころか、冷蔵庫の中身すら情報量が多くて見ることができなかった。今は冷蔵庫を見ることもできるし、自分のために料理をすることもできる。納豆のはさみ焼きをつくれるので、まだ大丈夫、と安心している。