2023年12月中旬から2024年1月上旬にかけて読んだ本の備忘録を兼ねて、記録をしていきたい。計9冊。
『明日も一日きみを見てる』角田光代著
『明日も一日きみを見てる』は『今日も一日きみを見てた』の続編にあたる角田光代の愛猫エッセイ。飼い猫のトトが人間の食べ物である生ハムを食べてしまうのだが、その描写が好きだ。
「見るとテーブルには生ハムののった皿が出ている。スペイン産の生ハムの皿を出してほんの一瞬目を話した隙に、トトがごくごくふつうにそれを一枚、へちゃへちゃと食べていたというのである。」
『明日も一日きみを見てる』角田光代著
飼い主にしてみれば笑いごとではないのだろうけど、猫が生ハムを食べる音はへちゃへちゃなのだな、という納得がある。
『今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい香料の本』光田恵編著、一ノ瀬昇、跡部昌彦、長谷博子著
香料が生まれた歴史や香料が作られる過程、化学的な臭い物質の変化までわかりやすく解説している本。化学面だけはどうしても専門的になるので難しく感じる。7世紀頃の中国の医学書『医心方』に記載されている「芳気法」が面白かった。芳気法とは体から良いにおいを放つようにするもので、香料を混ぜ合わせた丸薬を飲み続けると「1ヶ月目には抱いた子供にも香りが移る」ほどになるらしい。
『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬著
第二次世界大戦中、ドイツ軍によりソ連の小さな村が滅ぼされる。娘が一人生き残っており、そこにソ連の援軍が来るが目の前で村人の死体を燃やしていく。村人を燃やした張本人はのちに上官となるのだが、娘は村を滅ぼした男、そして上官に復讐するために銃を持つ。500ページほどもある分厚い本だが、その分読み応えもあり、後半の畳み掛けるような展開が良い。そして、とてつもない百合なのだ。
誰よりも嫌っていた相手が、そう言って自分を抱きしめている。自分にとっての仇が、自分を唯一認めている。抱きしめられた腕の中で、徐々に身を固くする力が抜けてゆく。
「大丈夫だ。お前はよくやっている。お前はそれでいいんだ」
「いいもんか、あんたが、あんたが私を変えたんだ……」
「そうだ。私がお前を変えた。狙撃兵に育てた。お前は敵を撃て。迷うな。一カ所に留まらず、自分だけが賢いと思わず、狙撃兵として敵を撃て、セラフィマ!」
『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬著
なによりも憎い、自分を狙撃兵に仕立て上げた張本人の上官だけが自分を認めてくれている。主人公が持つ感情が憎しみだけではないことが感じとれる。これ以降の感情の変化もすさまじいので、ぜひ読んでほしい。
『外来魚のレシピ 捕って、さばいて、食ってみた』平坂寛著
「デイリーポータルZ」に掲載された、著者の記事をまとめて書き下ろしを加えた、外来魚の食べ方の本。外来魚とはあるが、カミツキガメやアフリカマイマイも掲載されている。サクッと読めるので手軽に生き物を食べる記述を読みたいときにいい。「カミツキガメの腹側の甲羅がエロい」と写真付きで述べられているのだが、確かにすごくセクシーだった。
『ずうのめ人形』澤村伊智著
『ぼぎわんが、来る』に続く比嘉姉妹シリーズの2作目。新年初読書だった。ミステリ色が強く、その面でも楽しめた。前作もそうなのだけれど、構成がとてつもなく上手い。伏線の張り方が気持ちいい。終わり方も悲惨ではあるのだが、陰鬱になりすぎないバランス感覚がすごい。小野不由美の『残穢』がたびたび登場する。未読なのでそのうち読みたい。余談なのだが、読み終えたのちカクヨム版の「近畿地方のある場所について」を読んで「新年早々伝播系ホラーばかり読んでしまった……」という気持ちになった。「近畿地方のある場所について」は読んで少し経った後が1番嫌!
近畿地方のある場所について - カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/16817330652495155185
『君の地球が平らになりますように』斜線堂有紀著
『愛じゃないならこれは何』に続く恋愛小説集、とのこと。『愛じゃないならこれは何』を読んでいなくとも楽しめる気がするが、同じ世界線の作品があるので読んでいると尚要素を拾えるのかな、とも思う。『愛じゃないならこれは何』が、強いことばを使うと地獄の恋愛集だったので身構えていたのだけど、それよりは諦めが漂うというか、さっぱりした後味だった。どの作品もストライクゾーンではないのに、一定水準で面白いのがすごい。
『江戸POP道中文字栗毛』児玉雨子著
著者が古典文学を紹介し、たまにリメイク小説を書く本。この著者のスレッズが好きすぎて、どうしても著書を読みたくなって手に取った。この本自体は面白いのだが、読んでいる最中に歴史が全然好きじゃないことに気がついてしまった。自分で認識のしていない時の流れが怖い。生まれる前にも世界があって、歴史があるからわたしが存在していることもわかるのだけど、なんとなく嫌だ。目に見えない物事がうまく飲み込めない癖があるのだけれど、その一環な気がする。作中で昔の流行語として「茶漬る(茶漬けを食べること)」が挙げられているのだが、当時の人々を身近に感じられていい。
『雪が白いとき、かつそのときに限り』陸秋槎著、稲村文吾訳
学園ものの密室ミステリ。学術的な会話であったりトリックであったりの内容が少しまわりくどくて難しいので、読むのが難しかった。主人公たちの関係描写や感情描写が丁寧で、内容が難しいことを差し置いても読んでよかったと思える。想像していたより百合だった。うれしい。
『推し短歌入門』榊原紘著
「推し」について創作活動がしたいけど何をすればいいかわからない人のために、短歌という手法をわかりやすく説明している本。歌の作り方が説明されているので、それに習ってみるのだが、なかなか難しい。短歌にはあまり触れてこなかったので、まずいろんな歌に触れるところから始めたい。作中で挙げられている歌で、特に気に入ったのが下記の3首。ユーモアに溢れているものが好きなのかも。
水道代払わずにいて出る水を「ゆ、ゆうれい」と呟いて飲む
郡司和斗『遠い感』
すこしずつわが食べてしまふものとして口脣の朱をおもひゐるなり
葛原妙子『朱靈』
くびれたりふくれたりしてほんとうに指みたいなソーセージ おいしい
牛尾今日子『八雁』2018年5月通巻39号
最終的に、「君の目の白鳥がとぶ薄氷が割れる音する春はすぐそこ」という歌を詠んだ。はくちょうとはくひょうのリズムが気に入っているけれど、もう少し具体性が欲しいし、単語に意外性も欲しい。精進したい。