書き換えるそのときまで

白鯨
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空っぽの部室を見渡して、シュガースプレイは思う。すべては定まっていて、変えようのない物語なのかもしれないと。

背後に開け放した窓のような死の存在を感じて、シュガーは記憶を思い返す。教師に連れられてそのまま、二度と戻って来なかった彼のこと。ある日突然消えた名簿の名前のひとつ。もうだれもいない部屋。しずかになった部室。記憶のページはさらに戻っていく。枯らした花壇の花。はじめて部室に入ったとき。入部届けの名前がまだ見慣れなかったこと。

何度も本を閉じて、最初から読み直しても結末は同じ。本の内容はこうだ、馬鹿なことを考えたある生徒たちは学園からいつの間にか消えてしまいました。美しき神の子のお花畑はいつまでも枯れない、ああ、なんとすばらしきかな。オカルト研究部は、この学園を賞賛するための物語の悪役に過ぎない。物語は悪役にとってのバッドエンドになるようにできている。いつだって。スポットライトが当たるのは死ぬそのときだけ。愚かな彼らは死にました。おしまい。何度繰り返してもこうなる。違いは、シュガーがいつ死ぬかだけ。今回はその順番が最後だっただけで。

もうすぐ教師が来るだろう。そしてシュガーの部屋も、同じように空っぽになる。塵ひとつ、思い出ひとつ、何も残さずに。

物語は書き換えられなければいけない。なにもかもがめでたしめでたしのハッピーエンドで終わるために。だれのものか分からず、結局は共有物になったボールペンを手に取る。

恐怖はない。芯を出したボールペンで勢いよく首に線を引いた。引っかかった喉仏の硬さだけが現実味を帯びて、あとは何もかもが嘘のようだった。

ページがばらばらと乱雑にめくられていく音が聞こえた。物語はふたたび最初のページに戻る。

@usamelone
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