「それで、一週間もどこに行ってたの?ぼくたちも心配してたし、もちろん教祖様も心配してたんだよ!え?うん、見るけど…」
行方不明になっていた舶来くんは、何度かの操作のあとに青白い顔でスマホの画面を差し出した。あれ、どこかで見覚えのあるサイトだ、えっと、
「エロサイトだよねこれ!?えっ、舶来くん、どういう…?」
「とにかく、見てもらえますか…」
舶来くんにしては珍しく愛想悪くぶっきらぼうなその口ぶりに内心傷ついた。ただの信者仲間とはいえ、信仰に裏打ちされたそれなりの信頼と絆があったはずだ。でもなにか理由があるのかもしれない。あんなにいい人の舶来くんなんだし。
さっきは驚きのあまりしっかりとは見ていなかった画面を眺める。投稿者は催眠おじさん?催眠おじさんって、何?固まったぼくに舶来くんも焦ったのか、彼は少し震える指先で自ら再生ボタンをタップした。
『催眠おじさんの動画チャンネルへようこそ〜!このチャンネルは、花がもたらした社会不安とチンポのイラつきを解消するために始めた催眠和姦レイプ動画です!視聴者の皆さん、こんにちは〜!!』
画面の向こうに向かって全裸の中年の男が手を振る。手の振動に合わせて、股間のアレが揺れる。キツい。肌が脂ぎっていて、頭頂部は薄いくせに体毛は濃い。キツい。
それよりもぼくの目を引いたのはその背後、どこでも売っているようなソファにぐったりとして横たわっている白髪の青年はいやに見覚えがあって、見覚えというか、今ぼくの目の前にいる。舶来くんだ。舶来くんがエロ動画に出演してる。
動画を見続けるのも怖いが、舶来くんの顔を見るのも怖い。結局ぼくは画面から目を離せなかった。
『今回エロい目にあってもらうのはこのイケメンくん、え〜っと…もしかしたら知ってる人もいるかも!さすがに本名はかわいそうだからはっくんとお呼びしましょう!はっく〜〜ん!今から君はこのおじさんのデカチンポと雄子宮ディープキスするんだよ〜!!おじさんのご立派さんにご挨拶して!アッ、ちなみにもう催眠済なのでおじさんのことは恋人だと思ってます!ラブラブですね〜!!』
おじさんに体を揺さぶられて、寝ていた舶来くんは目を覚ます。自分の置かれた状況を理解していないようで、きょろきょろ辺りを見渡したあとキョトンとした顔をしている。ぺちぺち顔に押し付けられるおじさんのブツにも無反応だ。おじさんもキョトンとした顔をしていたが、あ!と声を上げたあとに舶来くんの耳元に口を近付けて何かを囁いた。すると舶来くんはパッとおじさんのアレに音が立つような軽さでキスした。まるで、恋人にするみたいな笑顔で。
『なんかね、催眠のかかりが甘かったみたい!もしかしたら心に決めた大事な人がいたのかも…妬けるね〜!でも大丈夫!もう完全にかかっちゃいました!』
おじさんがソファーに座ると、舶来くんはそわそわしだして、あわてて服を脱ぎ出す。まず上半身のシャツ、次にズボン、それからパンツ、急いでいるせいで靴下を脱ごうとしたときに長い足がもつれて、おじさんに小馬鹿にしたように笑われて、「もう!」と頬を膨らませて怒る舶来くんはぼくにも確かに可愛く見えた。
舶来くんの全裸は若い男の体だなあ、というだけでキツくはない。キツくはないけど、精神的にはおじさんの汚い全裸よりもつらい。知り合いの裸、それも誰だか知らないおじさんに顔を赤らめながら服を脱ぐ知り合いというのはだいぶキツい。
『ストリップみたいにもっとエロく脱いでくれてもよかったんだよ、はっくん!ちょっと期待してたのに……』
『だって…おれ恥ずかしくて、そんなことできない…エロいところならこのあといっぱい見るんだし…♡』
ああ、舶来くん。知り合いのそういう顔はキツいよ。想像したこともないし、見たくもなかったその顔に血の気が引く。どういう感情でこの動画をぼくに見せてるんだろう、舶来くん。
動画は進む。
『さっきもかわいいチュー♡してもらったけどあんなのじゃだめだめ!濃厚喉奥キスしなきゃ恋人じゃないもんね?』
『おれ下手くそだけど頑張る…!』
画面の中の舶来くんはおじさんのアレを頑張ってアレしている。窒息しそうだ。窒息死しなかったからここにいるんだけど。
『あ〜…♡そうそう、はじめてにしては上手だね♡でもそんなの濃厚って言わないよ、本当のフェラっていうのはこうやるんだからさあっ!』
舶来くんの小さな頭を鷲掴みにして欲望のままに腰を振る。カメラの視点が切り替わる。しばらくしてから解放された舶来くんは、咳き込みながらも蕩けた顔をしていた。顔じゅうが鼻水やら涙やら汗やらでぐちゃぐちゃになりながらも、舶来くんはカメラに微笑んでいる。
『おれのあったか喉奥オナホ、気持ちよかった…?♡…おれは、喉奥突かれてイきそうになったけど…♡』
一人称視点というのだろうか、舶来くんの顔がアップになったままおじさんとの会話を続けている。たまに咳き込むのが可哀想でならない。
ぽそぽそと自分の"使い心地"を尋ねられ、おじさんは黙って舶来くんの頭を撫でた。撫でるついでに鷲掴みにされたせいで乱れた髪を直すのも忘れない。妙に律儀だ。
視点がまた切り替わる。今度は少し離れた位置にカメラを置いて撮影したようだ。ソファーの上でひたすらに乳首をこねられている舶来くんの顔は拭いたのか綺麗になってはいるが、表情は先程よりもさらに崩れている。頬は赤いしそれに、
『う”ぅ〜…♡乳首もうやだ、はやく挿れて…♡ん、ん、♡そんな弱い触り方じゃ無理だってえ……』
おじさんの足の間に座り、背後からの愛撫を享受する舶来くんは不満げで、というか不満タラタラだ。不満じゃないものもダラダラだけど。
『すぐに挿れるのは怖いって言ったのはそっちでしょ?それにもうちょっとだよ、あとははっくんが乳首でイきたいって思うだけ。それに…弱い触り方が嫌ならおねだりしなきゃいけないよね…?』
『ぅ、…おれの乳首、もっと強くつねって…♡いじめてくださ、あ!♡や、だめだめだめ、つよいっ♡とれちゃう♡お”お”ぉっ♡いく、いく、いぐ…っ♡』
『ほらね!ちゃーんとイけたでしょ。じゃあ次はさ、はっくんのナカにお宅訪問させてもらおうかな〜♡』
-
「というわけで…正直教祖さまに相談しに行くのはちょっと、」
「あのね舶来くんぼくはこの間結婚したばっかりでもちろんぼくは至らない人間だし妻にも頼りっぱなしだけどすごく幸せでね」
「え…はい」
「教祖様にも祝福していただけたし信者のみんなにはささやかにパーティーまで開いてもらっちゃったりしてこれからますます妻と教団を愛していこうと思っててね」
「はい…?」
「つまりぼくはまだ道を踏み外したくないの!!舶来くんぼくもついて行くから教祖様のところに相談しに行こう!?」
「はい…」
舶来くんは本当に悩ましい顔をしている。冷や汗までだらだらにかいている。教祖様のお部屋に行くときだけじゃなくて、ぼくのところに来るときもそれぐらい悩んでくれればよかったのに………
教祖様のお部屋はそのお人柄と同じく、オープンだ。安全上はどうかと心配する信者も多いがここにはそんな不届き者はいない。だから教祖様のドアをノックすることに戸惑う信者はいない。こんなときでなければ。
「どうぞ」と教祖様の麗しいお声が聞こえて、そのあまりの美しさに何の用事でここに来たのかすら一瞬遠かったが、ドアノブを握る舶来くんの指先の白さで思い出した。
それはそうと、相当気まずい状況じゃないだろうかぼくは。舶来くんから最初に話を聞いただけだし。
もう一度あの動画を見るのは勘弁だった。ぼくはまだ妻を真っ当に愛してたい!
「えっ、」
「舶来くん!あとはがんばれ!」
舶来くんの顔は見ずに、廊下を駆け戻った。
ごめんね舶来くん。同情の気持ちが浮かんではあの動画と混ざってなんとも言えない気持ちになる。はやく帰って妻に慰めてもらおう。あと、今日は早く寝よう…