エッセイ
『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』古賀及子/めちゃくちゃよかった。とかひとことでいうのもはばかられるような描写のこまやかさ。緻密とかいいたくない、こまやかで丁寧で、程よい距離感があって、ノリのよさみたいなのがものすごい伝わる。いちいちかわいくて地団駄踏みたくなる感じ。とにかく「よ、よ〜〜(良)」ってなって一編読み終わるのだった。自分が親になるとかわからないけど、こういう空気と距離感で子を見れたら、いろんなこと解決しそうだなって思った。愛だね〜〜。
『くもをさがす』西加奈子/知り合いの少ない故郷から離れた国でがんを宣告されたら、自分であれば帰国を選ぶかもしれない。身の回りでいうがん闘病って、安静第一で自分(と家族)の孤独な闘いという感じで。その真逆っていうか、まず、バンクーバーの医療従事者の方々のセリフに関西弁が使われるだけで、ちゃめっけたっぷりに感じられて、すご! わたしは 他者とどう関わる? という点でいろいろと刺さりました。おいそれと頑張れと言えない時代だけど、あえて頑張れと伝えたいとき、自分はどう行動しようか。
『私の生活改善運動』安達茉莉子/前職を辞め、フリーターのようなフリーランスのような無職のような立場の時期に手に取った本。雨宮まみさんの『自信のない部屋へようこそ』もそうだけど、わたしは自分にとって心地のいいものに気づき、選択する人々の文章が好き。自分の快/不快というか、「おいしい」という感覚すら自信がなくなってしまった安達さんの一つひとつの感覚を手に入れていく描写がいい。ふんわりとした本かと思いきや、終盤の鏡の話あたりの凄み。無職期間に読めてよかった本。
小説
『BUTTER』柚木麻子/女友達に勧められ、そのまま別の女友達に勧め広めた作品。配って歩きたい。1人の容疑者に翻弄される記者……というとカンタンだけど、巻き込まれてバランスを崩したり、と思いきや自分の適量を知ったり。真実に向けて動いていくのかと思いきや、人があるべきと思い込んでる姿から距離を取る話でもあり、シスターフッドもある。出てくる料理の描写も細かく強靭で、おいしそう〜どころか胃もたれしそうになった。読了後、Y2K新書を聴き、『本屋さんのダイアナ』を読み、「エトセトラ」の「We love 田嶋陽子」号を読み返し、柚木麻子フォロワーになりつつある。
『黄色い家』川上未映子/立場が人を変えてしまう怖さってあるけど、それをこんなに描けるのかと思った。ただ目の前の道を(よりよくするため)歩いていたら袋小路に入っていたみたいなことが一定の人生で起こってしまう、とか。「わたしが認識していることが、認識できることが、真実であるといえるのだろうか。」というのがそのままこの一人称小説の怖さに感じた。暗くてつらい、けど青春を描いているようなスピード感もある。クライムサスペンス、そうなんだけど、好きな人たちと一緒に暮らして夢を追うってやっぱ青春なんだよな。(今年黄色い表紙の本結構読んだな)
短歌/川柳
『ふりょの星』暮田真名/短歌をよんでみる会に参加したら(結局詠めず)その場に置いてあったので、パラパラと開いて読んでいたら「ティーカッププードルにして救世主」という一句にやられた。一見関係のないものを並べたときに意味を感じてしまう人間の性質、面白みみたいなものがあると思っていて、暮田さんの川柳は特にそういうことばのジャンプ率みたいなのが高くてサイコー。川柳って「季語のない俳句」みたいな知識しかなかったけど、めちゃくちゃポップなんだなと思った。この本手にしたあと『ぺら』とかも買いました。
『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』/枡野浩一さんを知ったのは、紫原明子さんが『家族無計画』を出したときに対談をしていたからで、短歌でなくエッセイから読み始めた。この本は発売されたばかりの頃、紀伊國屋新宿店のフェアで買った気がするから、ほんとうは2022年に読んでいた気もする。でもそのとき買わなかった気もする。エッセイ読んで「なさけないが、とてもいい」と思って、現代短歌を知りたいと思ったきっかけの人。本の冠になってるこの一句が、わたしも大好きです。
指南書(なんていったらいいの?)
『タフラブ 絆を手放す生き方』信田さよ子/タフラブは「手放す愛」「見守る愛」と翻訳される概念。こちらもこの世の全ての「娘」に配り歩きたい本だった。一般的にいいものとされる絆とか尽くす愛みたいなものに対して、「待て待て待て」とやってくれる心強さ。自分と他人の問題を切り分ける難しさは特に家族/恋人だとめちゃくちゃあって、気づくとかんたんに共依存の構図に取り込まれるなと思う。これを読んでいてOVER THE SUNの「落ちていくコップを拾わない」話を思い出した。境界線って大事なんですわ。
『死の講義―死んだらどうなるか、自分で決めなさい』橋爪大三郎/コロナ禍最盛期で出た本らしいので、刊行からしばらく経って手に取った。し、なんなら2022年中にちょっと読んで挫折して、2023年の無職期間に読破した記憶。本の中で橋爪氏が書いている通り、中学生でもわかる平易な文章で各宗教の「死」の定義が書かれていて、じゃあ自分は死をどう定義しますか? というような本。宗教学に明るい人にはつまらないかもしれないけど、体系的にいろんな宗教の特徴がわかるのがよかった。し、パターンを知ることで自分の輪郭が掴めるものだね。
特別枠
『40歳がくる!』雨宮まみ/「あんなに誰がみても今後もっとすごくなると思う人でもこういうことが起きるって事実があって、その上で自分がどう思うか」みたいなことを雨宮さんが亡くなった当時に友人が言っていた(この切り分け方に感動して、いまでもリスペクトしている)のを覚えている。「40歳がくる!」の連載が楽しみだったし、折に触れて読み返していた。寄稿の書き手とか、この本の刊行の是非とか、わたしの知るところではないけど、美しい本で、手元にある安心感という意味で、感謝している。2016年と2023年では変わったことも自分もいっぱいで、だからこそ令和を生きる雨宮さんがみたかったと思ってしまうのは、非常に図々しい態度なんだろう。そして『結婚の奴』、やっぱよかったなー。って、能町さんのことを考えたりした。