蒼の竜騎士・エスティニアンさまに、私は幼い頃からずっと恋焦がれていた。
ドラゴン族が雲霧街を襲ったとき、彼はすぐさまかけつけて流星のように飛び回り、次々にドラゴンを撃ち落としていった。そのお姿は光そのものなのに、どこか闇を孕んだような印象を受けた。美しくて、恐ろしい。私はドラゴン族の群れを前に死の恐怖で震えていたけれど、竜の力をもち、赤い光をまとって飛び回るエスティニアンさまのほうが、ずっと恐ろしいのかもしれないと思った。
その日エスティニアンさまは、竜騎士団を率いて、邪竜を見事に押し返した。けれど、たくさんの人が亡くなり、たくさんの人の行方がわからなくなった。毎日誰かが、誰かを探していた。これが竜詩戦争なのだと、私たちは思い知らされた。
私たちの家は幸い無事だったから、下層に住まう皆と一緒に雲霧街の復興にあたった。
今日はあのエスティニアンさまが暁の血盟にお入りになられて、初の晴れ舞台。エスティニアンさまが英雄殿と同じ組織に入られたと知って、私たちは心の底から大きな希望を抱いた。イシュガルドを救い、そして今は世界を救っていらっしゃるエスティニアンさま。私たちは何も持たないけれど、蒼の竜騎士さまにどうかあのときの感謝の思いを届けたくて、皆でお金を出し合い、ささやかなフラワースタンドを贈ることにした。
小ぶりだけれど愛らしいフラワースタンド。私たちはこれがとても愛おしくて愛おしくて、友人数名と会場に足を運んで、自分たちで設置しに行った。しかし、私たちはそこで絶望した。
総長さまのフラスタが、あまりにも豪奢すぎる!
ええ、理解はできる。総長さまはエスティニアンさまの古くからのご友人というのは、有名な話だったから。でも。総長さまのは、周りの花々のどれよりも美しく、どれよりも大きい。金色の、見たことのない幅のリボンがあしらわれた、蒼いフラワースタンド。私は目の前が真っ暗になった。
あの豪華なものに比べて、私たちのフラスタは、なんて小さくて儚いのでしょう……。これではまるで、私たちの思いが小さいみたい。でも、どうか信じて欲しい。これは私たちの精一杯の想い。それだけはどうか、知っていて欲しい。それにきっと、蒼の竜騎士さまは、大きさで評価するようなお方ではないはず。そう自分に言い聞かせて、私たちは、総長さまのフラスタの近くに、私たちの風が吹けば飛んでいってしまいそうなフラスタを置いて帰った。
私は家につくと階段を駆け上がって自室のドアを勢いよく開けベッドに飛び込み、明かりもつけずに泣いた。泣いて、泣いて、総長さまを恨んだ。今まであれほど民に寄り添ってくださった総長さまが、「私が最もエスティニアンを想っているのだ」と言わんばかりのフラワースタンドを贈るなんて。あんなものがあったら、それ以外の花々が目に止まらないかもしれない。私たちのフラスタは見向きもされないかもしれない。
私も、蒼の竜騎士様さまに喜んでいただきたかった。悔しくてたまらなかった。いいえ、でもきっと、蒼の竜騎士さまは、形や大きさにこだわりをもつような、器の小さいお方ではない。私たちのささやかな花でも、きっと伝わるはず。もしかしたら、ええ、きっとそう。未来だけを見据えていらっしゃる蒼の竜騎士さまなら、誰の花にも振り向かないかもしれない。けれど、もしそうなら、それでは、寂しすぎる。私はどうすればよかったの? 貴族に産まれていれば、私もあのように豪華なフラスタで蒼の竜騎士さまをお祝いできたの?
悔しい、悔しい、悔しい。泣き疲れて、私はいつのまにか眠っていた。気が付いたら、朝になっていた。こんなにもよく晴れた日。皇都には、エスティニアンさまの晴れ舞台にふさわしい蒼空が広がっていた。