あの頃のこと

るり
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今年の春の記憶。

新幹線でEd SheeranのCastle on the Hillを聴きながら地元へ帰る道中、飛ぶようにながれてゆく景色をぼんやりと眺めていた。

I'm on my way、とイヤホンから彼の声が流れてくる。私は今Tiny Dancerを歌っているわけでも、田舎道を行くわけでもない。丘の上にある城の向こうで沈む夕日だって身近なものではなかったけれど、傷だらけになったり笑ったりしながら過ごした、自分自身の日々のことを緩やかに思い出していた。

この曲に限らず歌詞をそのままなぞるような体験はほとんどないけれど、ハッと頭の中をよぎる記憶はある。ひとつひとつの具体的なものが記憶に結びつくわけではなくとも、なんとなく近いものやなんとなくしっくりくるものってきっとあるのだと思う。

10代の私は、本当にそのまま、だった。何でもかんでも真正面から何も持たずに考えずにぶつかって怪我をして、それでも裸足のまま、足の裏に傷ができても構わないとばかりに走り続けていた。

27年生きて、傷つきにいかないこと、踏み込まないこと、自分の柔らかな部分を晒さないこと、自分が長く息を続けていくための術、いろんなことを覚えたような気がする。

あの頃みたいに傷つくことは少しだけ減った。でも、剥き身の、大した装備もなく走り続けていた、傷だらけの私はまだ心の中にいる。これからもきっと。あの時走り続けていたマインドは変わらず心の中にあるのだ。嬉しいことに。

あの頃、あの場所に置いてきたもの、手放したもの、知らないうちになくなっていたもの、それらと同じくらい、いまでも掌の中に残っていたもの、ポケットにおさまっているもの、今の私はこれまでの私とこれからの私と共にいる。確かに私は一人ではないと思えたこと、それだけでよかった。

@utatane
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