プロの技を伝授する系の料理コンテンツ、プロの対義語として「家庭」を使ってるものが多いけど、見るたびにイラッとする。なぜ「素人」と対にしないのだろう。
家庭料理というのは人間の日々の生活を支えるための大切な存在であり、料理を趣味特技としない者でも身体を維持するためにやらなければならず、毎日毎食を他の仕事もやりながら用意するための特別な工夫が必要になる(専業主婦なら他の仕事なんてないだろと思ったそこのアナタ、その他の家事全般も立派な「仕事」だぞ)。そしてそれらを完全無償でやる。感謝すらされないこともザラにある。
プロの料理人とはそもそも求められるものが全然違う。つまりはジャンル違いなだけで、そこに本質的な優劣はないと自分は思う。料理を賃労働として日夜料理研究に励むプロたちが、一般人が作るものとは質の違うものを作れるのは至極当然だ。すでにそれとして完成されている家庭料理を引き合いに出さず、シンプルにプロ/素人という語り口で並べたらいいのに、なぜ「家庭」という言葉で対比したがるのだろう。
今や専業主婦家庭はほとんどなくなり、共稼ぎ家庭が大半である社会になった。それでもいまだに日々の家庭内での調理を担わされることになるのは、その多くが「女性」たちだ。それとは反対に、プロの、特に有名な料理人はほとんどがシス男性だ(少なくとも日本国内では)。家庭内のケア役割としての料理は「女性」に押しつけ、価値のある賃労働としての職やスキルは「男性」が占拠する。そういう構造がいまだ根強い中、プロの立場である者たちが、我々は家庭料理などとは違ってこんな技を持っています!とひけらかす…… そういう、ジェンダーギャップの視点から見えてくるグロテスクさもある。
今もあるのかどうかは分からないが、昔何かのテレビ番組でもプロの視点で家庭料理にダメ出しをするものがあった。昔といっても数年前だけど。こちらはYouTubeなどのようにサムネ画像で対比を載せるとか、「家庭」という言葉を使うとかってレベルではなく、家庭でなされるアレコレをハッキリ「ダメなもの」「劣ったもの」とし、そんな体たらくだからイマイチなものしか出せないのだとでも言いたげな内容になっていた。もちろん、映像内で出てくる家庭料理担当者は女性表象のみというダブルクソ仕様。もう一度言うが、昭和の番組ではなく数年前にも見かけた記憶のある番組だ。
自分は家庭内で日々の料理を担当する立場になったことはないが、あの番組は見かけるたびに腹が立った。あまり自炊をしない自分ですら腹立たしく感じたのだから、同じように腹が立った主婦の方、大勢いたんじゃないだろうか。ああいう番組を無邪気に楽しめるのは、基本的に「お出しされる」側だろう。何なら「お出しされる」側に お前もこんなふうに作ってくれよ と番組を横目に言われた方もいるんじゃないだろうか。
人間の日々の生活・身体維持という重要な役目を負っている家庭料理を引き合いに出して「プロ」の技をひけらかす高慢な料理人たちには、土井善晴の爪の垢でも煎じて飲んでほしい。