距離感バグ

蟒蛇
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「SNSでやたらめったら話しかけまくってくる距離感のバグった中高年」の愚痴を見かけることが稀にある。最近は居場所を変えたせいかあまり見なくなったけれど、Twitterでは複数回見かけた。

自分もそのような中高年の方にギョッとした経験はある。まるでテレビの展開に独り言をいうかのように、自分が書いた投稿にタメ口の語りメンションをぶら下げられたことが数回ある。この数回のうちの1回を除き、他はすべてTwitter時代にフォロワーだった見知らぬ中高年シス男性と思しき方からのものだ。なんと返信すればいいのか分からなかったし、自分の投稿にぶら下げられたものなのに自分の投稿内容とは微妙にズレた内容に感じたので、すべてスルーした。

数ヶ月後、なんとなしに自分のフォロワー欄からその方のアカウントに飛んでみたら、最近のフェミはどうのこうのと反フェミニズム言説をつぶやいていた。もしかしてこの人は自分以外のフェミニストにも度々独り言メンションを送りつけていて、見事にすべてスルーされて逆上したのではないかと直感的に思ってしまった。(真相は分からない)

自分は今年ようやく中年層に片足を突っ込む年齢だけど、実はSNSで距離感をバグらせてしまう中高年の方を他人事とは思えない時がある。自分の場合はあくまで相互フォローの人限定ではあったけれど、似たような振る舞いをしてしまっていた時期があるからだ。

当時の自分は相手の都合はあまり考えず、いろんな相互さんの投稿にリプライをしまくっていた。ノリノリで返してくれる方がほとんどだったけれど、内心どう思われていたかは定かではない。大人しくしていれば隠し通せたかもしれない自分の「異端さ」を、マシンガンリプライの中で自らさらけ出してしまい、気まずい空気が流れたこともあった。

なぜそんな暴走をしてしまったかというと、原因の一端は社会に蔓延る「コミュ強」贔屓や外向型至上主義にある。

年齢が上がるにつれて、自分の「普通」じゃなさが気になってきた。中高生時代はフィクションで否定的に描かれる「教室で浮いてる子」そのものな存在だった。なぜ自分がそのような立場に身を収めることになってしまったのか、どうすればそこから脱却できるのかさっぱり分からず、ただひたすらに惨めな思いをし続けた。「普通の青春」を謳歌するクラスメイトたちを外側から眺めるだけの人生を、いつかは変えたいと常に思っていた。

自分は大学に進学したのだけれど、当時は学びたいことがあったわけではなかった。ただ、惨めなまま学生の期間が終わってしまうことが怖かった。そんな人、リアルでもフィクションでも見たことがなかったから。そんな状態で大人になっても上手くいくはずがないと思わされていた。だって様々な失敗が許されるのは学生時代までで、「社会人」になったら何事もミスなく完璧にこなさなければならないのだから。自分が出会ってきた教師をはじめとする大人たちは、自分にそのような呪いをかけてくるような存在ばかりだった。

中学で一時的に居場所がなくなり、場面緘黙ゆえにイジメや嫌がらせにあい、高校は場面緘黙の後遺症で思うように話せずトラブル続きで、性的逸脱や恋人に依存してしまったことがさらに裏目に出てしまい、いつまで経っても状況は一向に良くならず……

八方塞がりになりながらもどうにか沼の底から脱出しようと、「コミュ強」の人たちの振る舞いをそのままコピーしてみたこともあった。所詮それは「猿真似」に過ぎないので、「全然喋らないコミュ障」のラベルの上から「うるさいタイプのコミュ障」という新たなラベルを貼られただけで終わった。

リアルでもフィクションでも、外向型至上主義が当然であるという認識が一切疑われなかった時代。非定型発達やニューロダイバーシティという言葉がほとんど知られていなかった時代。「普通」とされる振る舞いができない人たちはただの「努力不足」の「怠け者」だと、まだまだ信じ込まれていた時代。

もし自分が今の時代に小中学生をやっていたら、自分が今まで無意識に発してきたシグナルをこうも次々と見逃されることはなかったんじゃないだろうか。そう思えてならない。

10代のころのこの苦い記憶を、いつ頃まで生々しく引きずっていただろう。ハッキリとは覚えていないけれど、フェミニズムや反差別思想に出会って3年以上が経ってようやく少しづつ軽減してきたような気がする。つまり、自分も大切にされるべき存在なのかもしれないと気づき始めてから、まだ5年も経っていないことになる。当然まだまだ道半ばだ。

それまでの間、ウェブ上でもずっと外向型を「猿真似」してきた。姿を明かさず文字だけのやり取りなら、リアルでのそれよりも演じやすかった。得られるはずだった「普通の青春」を取り戻したい一心で行う演技の数々は、自分が救われるためのミッションのような気持ちだった。

「猿真似」の試行錯誤の中でたくさんの人を驚かせ、困惑させ、不快な思いをさせてきてしまったと思う。それ自体は本当に申し訳ないと思っているし、叶うならひとりひとりに謝罪をしたいくらいだ。ただ、自分も必死だった。あなたたちのようになりたくて、子どものころから必死にもがき続けていた。

これらはあくまで個人的な経験なので、同じ「距離感のバグった人」でもひとりひとり異なる背景があると思う。単に慣れていないせいでSNSの使い方が下手なだけの人という可能性も大いにある。自分が出会った者のように若者を無料ホステス扱いしたり、マンスプレイニングじみたやり方で支配しようとしてくる人も中にはいる。

身の危険を感じたり、支配欲求が滲み出ているような人まで無理して相手をすることはないけれど、相手がただ距離感を見誤っているだけの人であれば、この社会は誰かに焦って距離を縮めさせようとするパワーが働いてはいないか、ほんの少しでもいいから考えてみてほしいと思う。そしてこれは、何らかの困難を抱えている側の人にも考えてみてほしいことだ。自分の苦しみを的確な言葉で表現する力がつくだけでも、心が少しだけ楽になることがあるから。

@uwabami
オタクィアフェミニスト。社会やら趣味やら雑多に語ってます。 詳細なプロフィールや語りの傾向は固定記事にて。