デカい地震のたび思い出すことがある

蟒蛇
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2018年の某日深夜、自分が暮らす北海道で大地震&ブラックアウトがあった。今までの人生で一番大きな揺れに見舞われて、パニックになりながら大絶叫した。だがしかし、そんな中でも逃げ道が塞がらないようにドアを開け放つことだけは忘れなかった。さすが自分。

揺れがおさまってしばらくしてからも心臓が大暴れしていた。東日本大震災の時に何度も余震が来たことを知っていたので、今回もまだまだ揺れるんじゃないかと恐ろしかった。

その日はたまたま家族が全員仕事だったので、一人になる不安を吐露する自分を尻目に、夜が明けるとみんな何事もなかったかのように家を出た。

2日くらいカップ麺でやり過ごし、夜は壁にぶら下げた懐中電灯の灯りの下で読書をした(それ以外にできることがなかった)。電池を無駄遣いするわけにはいかなかったので、アプリゲームはほとんど開かず、SNSも最小限に留めた。それでも電気の復旧がいつになるのかは早く知りたくて、5分おきくらいにNHKアプリを開いて更新ボタンを押しまくった。たまに開いたTwitterでみんながいつも通りのツイートをしている姿を見るのが意外と癒しだった。

電気が復旧してしばらく経ってからも、体調がなかなか戻らなかったのを覚えている。パニック発作がまだ完全には封じ込めてなかった時期だったので、雪崩のようにメンタルが崩壊した。

メンタルに引きずられるようにお腹を壊して内科に行くと、自分の前に診察を受けている中年女性と思われる方の声が微かに聞こえてきた。どうやらその方も地震のせいで体調を崩したらしかった。そういう人、きっとたくさんいただろう。

ようやく地震への恐怖とトラウマが回復してきたころ、一つのバズツイートが目に入った。スクショも魚拓もとってないので正確な文面を再現することはできないけど、ブラックアウトの時に知り合いの道民の方が星がよく見えることに気づいて眺めていたらしく、そののんびり具合がステレオタイプな「道民らしさ」と合致するからと面白がるようなツイートだった。

ツイ廃的ないつもの癖で一瞬面白いものが流れてきたような錯覚がしたあと、すぐに冷静になってスーッと心が冷えていくのを感じた。

ブラックアウトすればどの地域でも星はよく見えるだろう。そして、そのことに気づいて不意に空を見上げるような人は、別に道民でなくてもどこにでもいると思う。

自分や内科で鉢合わせた年配女性のように不安や恐怖に苛まれたり体調が戻らず苦しんだ人が確かにいるのに、そういう現実の被害には触れられず、道外の人が思う「道民らしさ」溢れるほんわかエピソードがバズる……

同じくらいの時期に、ゲームイベントか何かが地震の影響で延期されたというツイートに「北海道にWiFiなんてあるわけないんだから無視しろよ」といったようなリプがつけられていたのもスクショで見かけた。それはさすがに批判的な意味で晒されていたものだったけど。

このSNS時代、道民なんてみんなそこらじゅうで出会っているはずなのに、なぜかいないことにされていると感じることがある。地方蔑視なのか、北海道という特殊な場所ゆえの独特な蔑視なのかは分からない。震災前までは正直あまり意識したことがなかったけれど、そういう空気は確かにあるということを思い知らされる羽目になった。

デカい地震があるたびに、あの「ほんわかネタツイート」を思い出す。それを見た時の冷えていった心とか、そういうイメージをつけられているんだなという薄らとした嫌悪感なんかも一緒に思い出す。

全然平気じゃなかったですよ。

平常心で過ごせていた人も、別に「道民だから」じゃないですよ。

@uwabami
オタクィアフェミニスト。社会やら趣味やら雑多に語ってます。 詳細なプロフィールや語りの傾向は固定記事にて。