共同親権パブコメ全文

蟒蛇
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過去に共同親権についてのパブリックコメントが募集された際に、大反対の立場で送った文章の控えを載せます。読み返して一部の誤字脱字を修正してますが、それ以外の内容はまったく同じです。

共同親権が何やらマズいということは知っているけれど、具体的な問題点は追えてない……そういう方の参考になるかもしれないと思い、記載することにしました。

文章作成をする際に、この問題について詳しい依田花蓮さんの解説配信を参考にしました。


乙案の単独親権続行にしてください。

現行の単独親権制度は、良好な関係の婚姻中の父母と子、良好な関係の離婚後の父母と子、良好でない関係の父母と子、すべての状態に対応可能なよく考えられた合理的な制度内容となってます。名称こそ「単独」親権制度ですが、離婚後でも子どもの利益のために父母双方が養育に携われる仕組みは民法766条にて保障されており、実際に婚姻関係を解消した父母も共に子育てを担っています。

2021年2月には東京地裁にて、

・親権がなくとも親と子であることには変わりなく人格的利益は失われない

・単独親権制度は父母関係が良好でない場合を踏まえた合理的なものである

という判決も出ています。

そもそも現状、面会交流実施が原則とされているために、子どもが嫌がっている場合でも家庭裁判所が面会を強制しているような状況です。現在養育に携われない親というのは、そのように原則に則って判断をする傾向にある家庭裁判所にさえ面会をさせることで子どもに不利益があると判断された親か、もしくは、面会交流調停の申し立てをしていないということになります。

まずは制度を知らない方のために家裁に申し立てをすることで面会交流ができる場合があることを広く知らせることから始めるべきですし、その上で裁判所に面会は不可能だと判断されるような親が子どもと関わることは配偶者にも子どもにも負担にしかならないため、法律で共同養育を強制するなど言語道断です。

議論されている共同親権制度は、父母関係に軋轢があり子どものメンタルにとって重い負担となる場合や家庭内暴力によって支配関係が生まれてしまっている場合などが想定されておらず、子にとっても子と一緒に暮らしている側の親にとっても大変危険です。子どもに会いたいという別居親の一方的な感情や、父母が揃っているべきであるという伝統的家族観に基づく偏見ではなく(そもそもこれは様々な事情から単親で暮らしている親子にとっても害のある価値観です)、現行法と親子の状態に合わせた合理的なものであるべきです。

この主張に対して親権の選択制や、事情がある場合に限り単独親権にしたらいいとの反論もあるようですが、現状裁判所は医師の診断書や怪我など目で見て証明できる身体的DVしか認めない場合が多く、被害が過小評価されている現実があります。DVは痣や怪我などが分かりやすく残るものだけではありません。精神的なもの、性的なものなど、一見しても分からないが当人や子どもにとって深刻なものが多々あります。DV・モラルハラスメントの加害者は外面がよく、社会的な地位が高いことも多いです。それゆえに外部の人間は加害に気づかない、被害を相談しても「あの人がそんなことするとは思えない」と信じてもらえないことも珍しくありません。

先日DV支援者の方のお話を聞きましたが、長らく精神的なDVしかしてこなかった配偶者についに殴られ転倒して骨折した方が、重篤な被害を受けたにも関わらず、これでようやく診断書をもらえるとむしろ安堵したそうです。このような状況下で共同親権を主とすれば、深刻な事態を招きます。そしてその状況になっても誰も守ってくれませんし、裁判所も含め誰も責任を取ってくれません。

共同親権にしなければ離婚を承諾しないといったように脅迫材料にされることもあるかもしれません。そうなれば、婚姻関係の解消すらも困難となります。冒頭にも書いた通り現行法は民法によって関係良好であれば問題なく共同養育できるものとなってますので、現行法によって辛うじて安全に過ごせている方を危険に晒してまで共同親権制度に変えるべきではありません。

海外では共同親権が導入されているとの主張も見受けられますが、海外での共同親権というのは子の身上監護のことを言います。今回検討されている共同親権の中にある「重要事項決定」「法定代理権」「財産管理」を共同親権に含んでいる国はありません。

子どもの連れ去りとの主張も別居親側にはよくありますが、その場合はDVが原因である場合が多く、もし本当に主として養育していたにも関わらず連れ去られた場合は、「監護者指定」「子の返還請求」を申し立てるべきであり、そのような救済制度がすでにあります。本当に子を誘拐するような親であれば、共同で養育するなど不可能でしょう。命の危険がある家庭を巻き込んでの共同親権導入ではなく、現行法の救済制度を使うべきです。

ハーグ条約で子の連れ去りが禁止されているという主張もよく見ます。ですが、ハーグ条約が禁止しているのはあくまで海外から日本へ許可なく子を連れていくことであり、国内での避難・別居はそもそも条約の対象外です。

片親疎外症候群なるものを盾にする方もいるようですが、そのような状態は根拠のない独断的な主張であるとして、2006年に全米法曹協会が批判しています。法律制定の明確な根拠として使うことはできないものです。

第2の注2、重要事項の決定に反対します。

子どもの居所や進学先、医療や宗教などにすべて元配偶者の許可が必要というのは、子どもや同居親にとって負担があまりにも大きすぎます。許可がなければ決定ができないというのは、家庭内暴力があった場合はもちろんのこと、子どもの養育に無関心な親だったり連絡がつかない場合なども、(進学先や医療などの時間の制限があるものは特に)子にとって最善かつ適切な判断がとれなくなったり、判断が遅れたことによる健康被害が出たりする可能性が大いにあります。

そして、必要な同意がとれなかった場合はどうするのでしょうか。上記の判断が必要になるたびに家庭裁判所に申し立てをしろということでしょうか。そういった判断をすべて家裁が担えるだけのリソースはあるんでしょうか。また、現在嫌がる子どもにも面会を強制することを原則として判断するような家裁が、それらの判断を逐一適切にできるのでしょうか。時間との勝負である判断を家裁に仰ぐだけの余裕は果たしてあるのでしょうか。まったくもって現実的ではないと自分は思います。重要事項の決定には、最も身近な監護者である同居親が適時適切に判断をすべきです。

第2の3の(4)、居所指定に反対します。

これは最悪命に関わることであり、特に強く反対します。現在子と同居親の住所を元配偶者に対して秘匿する家庭がありますが、そういう家庭はそうしなければ危険な状態にあるという場合がほとんどでしょう。命の危険があるほどの、もしくは子の養育に支障が出たり日常が送れなくなるほどの精神的な苦痛がもたらされるような、深刻な暴力があった場合などです。

子育ては携わる人数が多い方が楽ですし、現在日本では単親へのケアや保障が決して十分とは言えないため、単親家庭は貧困に陥る可能性が高いです。そのような状況の中で、離婚・別居を選択するだけでなく住所を秘匿するというのは、そうせざるを得ない理由があります。好き好んで一人きりですべての負担を担ったり貧困状態へと飛び込むわけではありません。

上記の理由から、元配偶者に居場所や連絡先が特定されないよう子とともに身を隠す方法がなくなってしまうというのは、比喩ではなく直接的に命に関わる問題です。居所を知らせることを法で強制するなど論外です。

第3の2についてですが、離婚後の養育費は別居親から直接受け取るのではなく、国が立て替えをして、税金のような形で取り立てる制度にしてください。

別居親から直接振り込まれる形だと、振り込みが止まった場合に弁護士への依頼が必要になり、経費がかかります。また、別居親の居所が分からなくなれば自分で探す他に方法がないです。立て替え制度は、そのような事態を防ぐ手立てとして諸外国ですでに導入されているものです。その制度がない日本の家庭は養育費の受け取りが2割程度となっており、ほとんどの家庭が養育費を受け取れていない状態です。

この状況を防ぐための利点として共同親権制度を持ち出す方もいるようですが、養育費とは子に関わるための対価ではありません。別居であろうと不仲であろうと、親である者は自分の子のために責任を持って払うべきものです。現行法のもとでも当然払うべきものであり払わないのは経済的DVですし、親権制度とはまったくの無関係です。養育費に関する問題点は養育費に関する制度で解決するべきことであり、解決できるものです。

最後に、今回のパブコメについて。自民党法務部会が初期の試案に対して口出しをしたというニュース、推進派の議員が参考資料の作成に関わっていたというニュースが過去に出ています。パブリックコメントは本来公平・中立の立場で運営されるべきもので、一方の主張に有利なように手を加えられてはいけないものではないですか。パブリックコメントそのものの在り方も見直してください。

@uwabami
オタクィアフェミニスト。社会やら趣味やら雑多に語ってます。 詳細なプロフィールや語りの傾向は固定記事にて。