「一般向け」ゲームのジェンダー未定主人公、男性表象に寄りがち問題

蟒蛇
·

今日は、Twitter時代のフォロイーさんが度々口にしているのを見ては頷きまくっていたこの問題について書きたいです。

分かる人はタイトルを見ただけでピンとくると思います。馴染みのない方のために説明すると、「男性向け/女性向けなどではないいわゆる一般向けとされるゲーム作品において、プレイヤーキャラ(主人公)がどんなジェンダーの人でも没入できるように建前上は中性的とされるデザインになっていたり選択できるものの、口調や三人称や周囲のキャラクターからのリアクションなどにおいてシス男性が前提とされている、あるいは男性的な表象に寄りがちである」という問題です。

具体的な例を挙げると、「〜のだ」「〜か?」「〜だろ」「〜しろ」などフィクションにおいて男性的な印象が強い語尾で喋る、三人称が「彼」、「くん」呼び、ストーリー中で女性キャラクターからのみ「モテ」る、などなどです。

自分はシスジェンダーの女性で、キャラクリや名前変換ができるゲームの主人公はその世界における自分自身として認識しているため、「男性的とされる表象」だと没入感が薄まり違和感を覚えます。なので、ジェンダーが特定できないような容姿か容姿自体が出てこないこと、口調や三人称でジェンダー化されていないことを重要視します。

これ自体は個人の楽しみ方の1つであり全プレイヤーが重要視している項目ではありませんが、同じ趣向の者どうしを比べた時にシス男性のみが引っかかりを感じずに済むのだとしたら、そこにはジェンダーによる格差があるということになります。

最近プレイしたわりと新しめなゲームの中にもそういう作品があり、ストーリーやキャラクターは好みなのに違和感が酷くてプレイを諦めざるを得なかったことがありました。直近だと、『Dislyte』という作品がかなり露骨な「ジェンダー未定に見せかけた男性表象」で萎えましたね……キャラクターデザインが脱ステレオタイプ的なのが気に入って、他に似たような乗り換え先もないため本当に残念に思ってます。

なぜ男性表象寄りになってしまうのかといえば、これまでの長い年月の中でゲームというジャンルは男の子のものとされてきた偏見の名残と、数が多い方(より多くの利益を生みそうな方)に寄せた商売をするという、売れることが「正義」である資本主義経済の構造が偏見をさらに強化してしまっているせいかと思います。

では、資本主義経済の中ではあらゆる層をターゲットとしたジェンダー未定主人公を作ることは不可能なのかというと、そういうわけでもないと自分は思っています。というのも、自分が今までにプレイしてきた作品の中には、ジェンダー未定主人公の解像度が高いなと感じる作品もあったからです。それらは大抵、いわゆる「女性向け」とされる作品が多かったです。

「女性向け」の作品ならば逆に女性が前提とされた主人公像になっているのでは? だからシス女性である蟒蛇が違和感を覚えなかったというだけでは? と思う方もいるでしょう。けれど、その感覚は「女性向け」ジャンルの解像度が低いゆえに生まれるものだと思います。

「女性オタク」と呼ばれる層、中でも特に同人活動をしている層は、個別のこだわりを持っていることが多いです。有名なところでは、Shipper、オリキャラ創作勢、単体推し、ガチ恋勢、夢者などがおり、これらは1人のオタクが複数を兼ねていることもありますが、基本的には界隈が分かれています。なぜこのように属性が分かれているのかハッキリとしたことは言えませんが、(シスヘテロ)男性と違い堂々と性的消費することを受け入れられがたいジェンダー格差があるゆえに、消費をするための文脈の方が発達した結果でもあるのかなと思ってます。

また、フィクションは現実世界での差別や排外からの逃避先として重要な役割を担うため、被差別属性である女性やジェンダーマイノリティの方が、消費物や娯楽としてだけではない現実に即したリアリティやレプリゼンテーションを強く求める傾向にあるでしょう。

そういった複雑な事情を汲まずに作品を作ったところですぐに人が離れていき、息が長く続きません。だからこそ「女性向け」ジャンルは、BL好きのShipperにも、恋愛抜きで単体推しがしたい人にも、疑似恋愛がしたい人にも受け入れられる、主人公のジェンダーが未定でどんな関係性とも解釈ができる(選択できる)表象が作られやすいのだと思います。

「女性向け」という、女性の客を想定しているジャンルにおいては解像度の高いジェンダー未定主人公が描けるのに、「一般向け」ではそれができていないことが多いというのは、つまり「一般向け」作品は実質「(シスヘテロ)男性向け」に寄ってしまっており(シスヘテロ男性以外の客の存在が想定されていなかったり蔑ろにされている)、そして制作側がそのことに無自覚であるか、あるいは排除しても問題ないと開き直っていることが考えられます。もちろんそのことは、上記した男性表象寄りの要素からもすでに明らかなことですが、「女性向け」の同ジャンル作品と比較することでより明確になります。

今でこそ「女性向け」とされる作品やジェンダーマイノリティもプレイすることを想定された作品も少しづつ増えてきましたが、ひと昔前まではシスヘテロ男性以外は客として想定されていない中で縮こまりながら(時には罵倒されたり蔑まれながら)趣味を楽しむしかなかったですからね……今もまだその傾向は完全には消滅せず続いてしまっているということでしょう。

いい変化は起き続けていますが、一気にすべてが改善することはないので、これからも長い年月をかけて徐々に改善されていくと思います。そのためにはただ願うだけではなく、企業やクリエイターに意見や感謝を送ったりしなくてはなりませんね。

@uwabami
オタクィアフェミニスト。社会やら趣味やら雑多に語ってます。 詳細なプロフィールや語りの傾向は固定記事にて。