二月に入ると駅前に「○○大学入試会場はこちら」と書かれたプラカードを持つ人を見かけるようになる。共通テストが終わり、私大の受験が本格的に始まるこの時期、わたしはひっそりと、受験会場に向かう受験生たちにエールを送っている。
古今東西、入学試験は様々ある。早い人はオムツが取れたあたりから、お受験の勉強と対策をスタートさせる。
その頃のわたしはといえば、ブランコで一回転を目指してガンガン漕いで振り飛ばされたり、ジャングルジムで頭を強打したり、ガードレールで足を滑らせ股間を強打したり、泥団子作成中に砂が目に入って大惨事を起こしたり、不注意による痛みで悶絶する機会が多かった。お受験なんてできる人間性は持ち合わせていなかった。
そんなわたしも高校、大学と受験を経験し大人になった。社会に出てからしみじみ感じることは、大学受験の重要性だ。
大学受験というものは、大人になってからの生活を決定する基礎になるもの、という意味合いが強い。大学とは、人生における最後のモラトリアムを過ごす場所なのだ。ここでの過ごし方で今後歩いていく道が決まる。荒波しかない大人の社会でいかに楽に泳ぐか、それは大学選びと大学での過ごし方にかかっている。その体で言えば、大学受験ほど重要な試験はない。
がんばれ受験生。手洗いうがいにビタミンCであらゆる感染症を撲滅し、緊張を乗り越え全力を出してほしい。やったことは解けるし、解けないものはやってこなかっただけなのだ。八割を目指して、緊張といういちばんの敵を鉄壁ガードで跳ね飛ばして、本番に臨んでほしい。
とはいってもしんどい。それはそう。勉強してもしても足りなくて、時間がないと焦って、逃げ出したくなったりもして、とにかく精神的に疲弊するのが受験シーズン。こんなにしんどい経験ないよって思うよね。わかる。わかるよ。
何が起こるかわからない受験。わたしも色々経験した。試験中に壮絶な腹痛に襲われ途中退席して、試験会場の保健室で大号泣したこともあった。万全を期して挑んだはずなのに全然問題が解けなくて呆然としたこともあった。とりあえずマークシートは3で埋めとけって投げやりになったこともあった。当時付き合っていた彼氏に「(道が凍っているから)滑るなよ!」と言われ、うるせえハゲ! と頭の毛をむしり取ったこともあった。
何が起こるか本当にわからない受験。でも大丈夫。頑張りは裏切らない。だから自信を持って人生における最難関を突破してほしい。
な〜んて思っていた時代がわたしにもありました。今はね、そりゃあもちろん受験生を応援する気持ちは変わらないけどね、最難関というのもその通りだけどね、わたしに関して言えば大学受験は、幼少期におめかしして挑んだピアノの発表会〜ど緊張でとち狂って盛大に音を間違えたけど何とか最後まで弾ききって拍手を浴びながら舞台から去る〜みたいなものだったなぁと思うわけです。
なぜならわたしの人生における最難関試験という名の修羅場は、大学在学中に用意されていたからだ。
わたしはとある資格を持っている。人生を楽に生きるためにどうしても欲しかった資格を、大学在学時に取得した。この資格試験が地獄だった。試験というよりも、試験に向けての準備段階を含む勉強が本当に地獄だった。
この大学生活で、わたしははじめて自分の頭脳の限界を知った。わあ……人ってどんなに頑張ってもこれ以上は理解できないって領域があるんだ……わあ……何もわからない……どんなに勉強しても答えがわからない……。
これが挫折なのか。当時のわたしは唸るしかなかった。友人がそれなりの点数を叩き出す試験において、わたしはいつも平均点に届けばいい方だった。赤点で追試なんて日常茶飯事だった。追試のたびにバイト代が減っていき、わたしはいつも困窮していた。
それでもなんとか課題をクリアしていき、やっと辿り着いた資格試験への扉。この扉を開けた瞬間からまた地獄が始まった。まず資格試験のための予備試験に受からない。受からないから二次試験。それもダメで三次試験。やっと受かったと思ったら本番のための追い込み勉強。朝から晩まで机に向かい、過去問を解き教科書を読み漁り、それでも理解できないことばかりで呆然とし、そんな日々をわたしは過ごした。もっと真面目に勉強しておけばよかった〜と何度悔いたことか。
終わりが見えない試験勉強。でも確実に近づいてくる試験当日という名の終わり。わたしは必死だった。二十数年の人生において最も必死に勉強した。大学入学試験のための勉強なんて、ポケモン言えるかなの歌詞をすべて覚える程度のものだったと回想するぐらい、とにかく勉強した。
地獄って、予備校じゃなくて大学にあったんだな。
当時のわたしはおそらくバッキバキの目をしていた。そんな地獄を生きていた。
あれから長い年月が経った。わたしは今でも試験のことを夢に見る。
試験まであと一ヶ月しかないのにまったく勉強していない教科があった! どうしよう! どうにかなるか? いやならんだろう! まあ大丈夫か〜……え、え、ほんとにどうする? これ夢? というか夢であってくれなきゃ困るんだけど! 起床。
毎回だいたいこんな感じ。目覚めて真っ先に「わたしは資格を有している。もう試験を受ける必要はない」と自分に言い聞かせて心を落ち着かせるまでがセット。資格試験はもう十年以上前のことなのに、やつはまだわたしを解放してくれない。
何が起こるか本人にもわからない受験。
わたしはいまだに囚われ続けている。
これこそがわたしのタイガーアンドホース。虎と馬。トラとウマ。トラウマ。
お後がよろしいようで。ちゃんちゃん♪