ズッコケ三人組珍道中 in 韓国②

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続きました。

①を読んだ方はおそらく気づいたと思うが、母上氏はまあ〜キャラが濃い。盛ってると思うでしょ? ガチです。素です。そりゃ「猪突猛進ハリケーンBBA」と名付けますよ。なので、彼女の行動を書くと、体力と気力と精神力がゴリゴリ削られます。旅行中はperfect kuroko として研ぎ澄まされた気力体力精神力を発揮する私でも、彼女と離れたらそんなもんすぐに捨てます。だって日常生活において必要ないでしょう。忍者じゃあるまいし。てことで、必然的に韓国珍道中は分割でお届けすることになるわけです。

さて、前回は離陸したところで終わった旅行記。②は韓国に到着したところから始めるとしよう。

途中まさかの機内食タイムが発生し、ないと思って朝ごはんをしこたま食べたのに、まさかの食事! と、perfect kuroko失格の烙印を押されかねない管理能力の甘さを痛感したが、2時間ちょっとのフライトは快適だった。食事タイム以外ほぼ寝ていたからな。ざんばら髪のサムライスタイルで。あれで背中を曲げていたら真っ白に燃え尽きた矢吹丈だった(またしても古い)。ちなみに機内食はおいしかった。やだ……牛肉久しぶりに食べる……やだ……プルコギのお肉やわらかい……家で食べるよりやわらかい……やだ……バターがある……こんなにたっぷり使っていいの……? やだ……おビールいただけるの……? ください、今すぐに。て感じでもりもり食べて飲んだ。だから太るんだ。ちなみに(「ちなみに」が多いな)美しフェイスのCAに英語でビールの銘柄を尋ねられた母は、何を聞かれているのかわからず、渾身のジャパニーズスマイルで濁していた。だが相手は美しフェイスのCAだ。早よ言わんかいの圧を込めたスマイルで何度も銘柄を聞いてくる。ジャパニーズスマイルで対抗する母。両者譲らずこう着状態。ここでハリケーン発動しないでどうするんだ! ほら振り回せ!「アサヒスーパードゥラァァァイ」とでも言ってみろ! と拳を握りしめる私。そしてお気づきだろうか。韓国到着から始めると書いておいて、我々がまだ機内にいるということを。

はい韓国到着。もう強制的に到着。

予約時に直感で選んだ、東大門のど真ん中にあるホテル(想像以上に豪華だった。さすがperfect kuroko)に着いたのが14時。今日はとりあえず明洞をぷらっと歩きましょう、ということで地下鉄に乗ることにしたズッコケ三人組。日本でいうSuicaは買わず、切符は都度買いにするってことで、券売機へ向かう私。うしろをひな鳥のようにちょこちょこ着いてくる母と姪……となるわけがないのが猪突猛進ハリケーンBBAなわけで、無事に韓国に着いた安堵感からか、猪突猛進ハリケーンBBAは見事に復活を遂げていた。すたすた先を行く母。券売機がわからず迷う母。うろうろする母。怪訝な視線を送られる母。なぜ待たない。学べ、私がツアコンだということを。きょろきょろする母を華麗に放置して、ぼーっと私のうしろを歩く姪(これでも初めての韓国でテンションは上がっているのだ。見た目にわからないだけで)を引き連れ券売機へ。海外に来たらなんでも挑戦、をモットーとする私の指示で、自分で切符を買う姪。おそるおそる操作する姿はとても初々しくて愛おしかった。ちなみに(また出た!「ちなみに」が!)券売機は日本語対応なので、駅の名前さえ把握していれば誰でも買えます。いつの間にかうしろに控えていた母にも切符を渡し、いざ地下鉄へ。姪に改札の通り方を教え(ここでもおそるおそる操作する彼女は愛しさの塊だった)、3人揃って無事に電車に乗り込んだ。

さて、にぎやかな明洞に足を踏み入れた私は、早くもこの日の夕飯のことを考えていた。事前に姪に、行きたいところ食べたいものをリストアップしておくように言ってあったので、姪が持参したガイドブックにはポストイットが大量に貼られていた。だがしかし。どこを見てもないのだ。何度見てもないのだ。私が食べたくてしかたがないチキンが! 韓国といえばチキンでしょうが! それを食べずして韓国に来たと言えるのか⁈ いいえ言えるわけがありません! てことで、すすすっと姪に近寄る私。「ねえ姪ちゃん。あなたチキン食べたくなぁい? 韓国といえばチキンでしょう?」「うーん?」「ほら、あなたの好きなアイドルもCMしてるじゃない」「あ、そっか。食べたい」よっっっっっっしゃ! こうしてまんまと大人の策略に嵌った姪。ごめんけど、あなたの食べたいものはひとつ諦めてもらうから。今夜はチキンだからぁっ!

perfect kuroko はharaguro kurokoでもあるわけで、私はさっそく今夜の予定を脳内で組み立てた。いかにも母と姪の興味を優先してますという風を装って、最高のプランを思いつきました、みたいな顔をして夜までのスケジュールを説明したあと、私は仏のような笑みを浮かべて言った。「じゃあ今夜はホテルで夕ごはんを食べましょう。ちょうど近くにチキンのお店があるから」

ふふふ。このチキンの店こそ、私が何年もの間焦がれてきたチキンのチェーン店なのだ。作戦は完璧だ。

perfect kurokoの狂いのないスケジューリングにより、何も知らない母と姪は私に導かれるままチキン店へ足を向けた。ここでひとつ教えておこう。猪突猛進ハリケーンBBAをおとなしくさせるには、ある程度歩かせて疲れさせるのがいちばん有効だ。どうだ。これを読んでいるあなたの人生にはまったく必要のないライフハックだ。

魔法の粉がかかっている黄金色のチキン(もちろん絶賛されているソース付き)を購入し、徒歩数分のホテルに帰る。このときの私の高揚感ときたら! 憧れ続けたチキンを食べられる喜びで、私は全身で快哉を叫んでいた。まさにこの世の春! だが私はperfect kurokoだ。過度な喜怒哀楽は表情には出さない。すんっとした顔のまま部屋に戻り、手洗いを済ませビールを開け、いざ、実食!

「おいしい! ……よ、ね?」

口のなかに広がる、甘いのかしょっぱいのかよくわからない味。チーズなんだろうけど、何でこんなに甘いんだ? カールか? カールおじさんのあのお菓子を粉末にして砂糖を混ぜてかけたのか? 両隣を見れば「おいしいけど、なんか、ねえ?」みたいな顔でもぐもぐしている母と姪。これはもしかして、よくない兆候なのでは……? 母にいたっては「はい。ごちそうさま」たったのふたかけらでギブアップ宣言! まてまて。2人でこの量はキツいぞ。もともと期待はしていなかったが、それでも期待はずれもいいところだ。 立て! 立つんだ母!「ちょっと味が濃いわねえ」とビールをがぶ飲みする母。もそもそする姪。「私はこの大根の漬物だけでいいわ」と酢漬け大根を抱え込む母。もそもそする姪。おまちになって。大根は私も食べたい。それがないとこの味の濃さはキツいです。

気を取り直し、韓国の大食いユーチューバーがこぞって激推しする、チキン用のディップソースを開封。ヨーグルトソースだと紹介されていた白いプリンのような硬さのソース。さすがにこれをつければ味変にもなるだろう。たっぷりつけて、いざ、実食!

「おいし……い、のか?」

ヨーグレットだった。

チキン用ディップソースは、大量のヨーグレットをプリン状にしたものだった。

甘い……とにかく甘い……なぜ……チキンも甘けりゃソースも甘い……なぜ……。隣を見れば、明らかに「もういいや」と思いながらもそもそする姪。というか「もういいや」って言いやがった。やめて。ひとりにしないで。「もう少し食べなよ。念願のチキンだよ」と、さりげなく責任転嫁するものの(大人気ないことは重々承知しているが、なりふりかまっていられない時もあるのだ)、令和を生きるティーンは意思表示が案外はっきりしているもので「もういらない」とあっさり断られた。この裏切り者ぉ! 残されたチキンとソースを前に震え出す私。だれが、このチキンを、食べるのだ……ハッ! 私か!! 私が食べたいと言った(言ってないけど)からな!!! チクショウ!!!! もう半ばヤケになりながら、甘いチキンと甘いソースをもぐもぐする私。間に酢漬け大根を食む私。それでも甘い。甘いよう……。

※ここでひとつ言っておきますが、チキンはおいしいよ。ただ甘じょっぱの配分が日本人の感覚とは違っているから大量には食べられないだけで、最初の2つ3つは斬新な味がおいしい。ファストフードを食べ慣れている人なら、普通に最後までおいしい可能性すらある。試してみる価値はある。できれば4人以上で。

チキンを食べながら、もう二度と韓国大食いユーチューバーの言葉は信用しないと決めた私だった。チキンは食べきった。胃がもたれた。酢漬け大根を奪われた母は不満顔だった。許せ。

ということで、韓国珍道中はまだつづく。(たぶん)

@uzu_uzu
エッセイ書いてます。いかにくだらなく、いかにアホな内容を提供できるかをまじめに考えています。 ごくたまに創作もするよ。