首が痛い。痛いよう。ぐすんぐすん。
なぜ首が痛いのかといえば、こうだ。
その日はいつもどおりの朝を迎えるはずだった。猫のフレッシュスメルな鼻息でふんすふんすと起こされ、スマホを見れば5時半。まだ夜明け前じゃん〜もうちょっと寝ようよ〜と手を伸ばすも猫はするりと体をかわし、早くメシをよこせとばかりににゃおんにゃおん鳴きまくる。そんないつもどおりの朝のはずだった。
ベッドのなかで、ぐぎぎっと軋む体を思いきり伸ばし(そろそろ潤滑油的なアイテムが欲しい。グルコサミンか?)、つりそうになる脛をよしよしといたわり(notふくらはぎ, but脛)、ふんっと気合を入れて起きあがる。ばっちこいこれがオレの朝のルーティン! オレはやるぜオレはやるぜ(オレはシーザー、猫はハチ)。
だが! (は!か!た!の塩!ばりに勢いだけでいかせてもらいます!) 事件は! 起きた! 寝室で! 会議室でも現場でもなかったね!
仰向けの姿勢で頭をほんの数センチ枕から浮かせた瞬間、
ピキ……。
首に走る緊張。静止する体。なんだ、今の感覚は。ざわ…ざわ…。寝起きの頭にふんわりよぎる不安。まさか、ねえ……? ベッドの下では猫が相変わらずにゃおんにゃおん鳴いている。早く行かねば。我が家の猫が空腹のあまりシャウティングチキンになってしまう! ボエェェェ〜ッ! オレはやるぜオレはやるぜ。再びゆっくりと起床を開始したそのとき、
ピキ……。
再び首に走る緊張。静止する体。
あ、これ、あれだな。
筋金入りの腰痛持ちわたくし、秒で悟りました。今まさに、やってはいけない筋をやっちまったのだ、と。
こういうとき、奇襲をしかけてくる痛みとの激しい戦いを繰り広げてきた歴戦の猛者は、すんっと冷静になる。焦ったってしゃあない。悟ると同時に脳内シブがき隊が「ジタバタするなよ」と熱唱しはじめるのがセオリーで、こうなってしまったからにはもう、世紀末ならぬ聖飢魔II(悪魔の降臨)を待つしかないのだと我々は知っているのだ。歴戦の腰痛猛者は、積み重ねてきた経験値で的確に物事を判断する。てことで「ワンチャン何事もなく起床」なんていう、砂浜でダイヤモンドを探すぐらいありえない希望を抱くこともなく、粛々と起き上がることにした。
だがしかし!! そうは問屋が卸さない!! 卸して!!
痛めた体勢のまま動くと走る激痛。じゃあちょっと向きを変えてみようかと、左を向くと走る激痛。それなら右。走る激痛。しょうがないから一度枕に戻って走る激痛。うなじから肩にかけて、動くたびに5メートルダッシュのごとく駆け抜ける痛み。ねえ、その距離、走る意味、ある? このときの私は「首が回らないって、本当に回らないんだなあ。そりゃにっちもさっちもいかないわけだ」なんてことを考えていた。そしてデーモン閣下(概念)の降臨は予想以上に早かった。朝ごはんぐらい食べてきてもよかったのに。
そんなこんなで腹を括るのが早いのも我々、歴戦の腰痛猛者だ。中途半端に浮いたままの頭を支える姿勢も限界だった(腹筋が死んだ)ので、これでも武士の端くれ、小細工など使わず正攻法でいくことにした。
仰向けのまま徐々に起き上がっていく体(ピキッ)、座椅子の角度をひとつずつ調整するように(ピキピキッ)、ゆっくりと(ピキ)、一段ずつ(ピキ)、確実に(ビキッ)、首が(ビキビキ)、痛い……!!! 首が!!! 痛い!!! 大事なことなので二回言いました。
いまだかつてこんな絶望的な目覚めがあっただろうか。生きながらにして死んでいくようなあの感覚。私が抱いた絶望は、目覚めたら目の前にものすごくブサイクな王子がいた世界線のオーロラ姫のそれよりも深かった(あくまで妄想です)。
さすがに猫も黙っていた。墓場からゾンビが這い出てくるような光景だったもんな。むしろよく逃げ出さなかったな、猫。
みなさんも奇襲には気をつけましょうね。あいつら、隙あらば攻撃してくる卑怯なやつらですから。私には早急にグルコサミンが必要なのかもしれない。
※首の経過ですが、翌日には可動域が広がり、今はだいぶ良くなってます。まだ痛いけど。