「都市伝説解体センター」の感想

vacances
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公開:2025/4/19

プレイ時間:15時間くらい?

おもしろかったです。独特な色彩のピクセルアートは洗練されている。システムもユニーク、物語を阻害しない程度に親切設計、解体したとき気持ちいい。シナリオは荒削りな部分もあるんですが、刺さる人には抜けない余韻がある。

キャラや関係性が気になっている人はこのゲーム向けのプレイヤーだと思うので、今すぐSteamやSwitchをクリックして事前情報無しで購入読了したほうがいいです。逆に緻密なロジックを期待している人はちょっと違うかも。

実況待ってるタイプだとしたら自分でやったほうがいい。往々にしてノベルゲームってだいたいそう、あなたの人生1回きりの経験は自分で切り開いた方がおもしろい。

以下、ネタバレ。

◆【オカルト?】

・最初に言うと、このゲームってオカルトではない。

モチーフをふんだんに盛り込んでいて、関わる事件もオカルト。私はオカルトが大好きなので、期待していたがちょっと違った。

というのも今作でのオカルトは「手段」。事件が最終的にヒトコワで終結する、兄が愛したオカルトだから如月歩による復讐もオカルトを絡ませた。結果ではない、だからオカルトではないと思った。定義は人それぞれだとは思うけど。

人の手で暴けない部分として残った「念視」、「千里眼」、違和感のある布石(ドッペル等)。それらは「信用できない語り部」の多重人格トリックで回収される。

でも今作のタイトルって「都市伝説解体センター」なんですよね。都市伝説を解体する、人によって広められた怪異は人へ終結する。灰は灰に、塵は塵に、土は土に。だからこういう終着は納得した。

◆【シナリオ】

・「都市伝説」を主軸にしたシナリオは面白かった。都市伝説=噂、人が「無いものをある」ことにしたり逆も然り、と繋げたのは好み。ヘドロみたいなSNS探索にも意味があった。

・最後の怒涛の数十分のために物語があるタイプ。

「”主人公=語り部”が実は多重人格者で、事件の首謀者だった」というのは賛否両論あるかもなー、と思ったら風評的には結構受け入れられてた。

同一人物トリックって驚きを提供するけど、それまでの過程に虚しさも発生しそうな諸刃の剣だと思うんですが、切なさに転換している体験が多そうでうまい。キャラや関係性に思い入れが出来たひとほど、真相に衝撃を覚えるし余韻がある。そして今作では魅力的なキャラ作りが成功している。

だけどそこに興味がない人、シナリオ単体に期待していた人は拍子抜けしたと思う。「同一人物トリックのあとに、もう一転あったら良かったなー」とこの手のタイプの人は考えたと思うんですよね。ジャスミン視点での追求エピソードとか。

ただ、このゲームってあざみーという語り部の物語であり如月歩の復讐劇でもあるから、物語の幕をあえてあそこで閉じたのかな…とも思う。

・一本道のノベルゲーム、物語に介入は出来ない。プレイヤーは観測するしかできない。

真相はこの形式ならでは余韻があったが、プレイヤーの想像の余地に任せるところもかなり大きい。SNSとかチェックすると実際成功している。「都市伝説」をテーマにしてプレイヤーが語りたい気持ちになっているのは商品としてよくできてるなーと思った。ファンアート多いのが納得する、書きたくなる。

◆【キャラクター】

・このゲームってキャラクターが魅力的なんですよね。

あざみはのほほんとしているけど芯は強い善人だし、ジャスミンは面倒くさがりだけど小気味いいカラッとした人(しかも肉弾戦に長けているエリート公安)だし、廻屋はミステリアス青年でどこか魔性的だし。1章の被害者の美桜からして完璧な善人はいないというか、清濁併せ呑む魅力がメインキャラにもサブにもあった。

・自分は富入が結構好きだったので、八面六臂とまではいかなくても終盤活躍しそうな気配にワクワクしていたら気配で終わった。いや、ジャスミン大事故後のあざみーナビゲートとかやってたけど…。

ジャスミンとの出会いとか気になる。中性的な口調の爬虫類系顔立ち男性とかニッチな人気があると思うんですが。

◆【システム、グラフィックとか】

・薄鈍色と灰青のピクセルアートのグラフィックやアニメーションがきれい。色数絞ったことで雰囲気がある、スチルは光の描写が良い。ホラーシーンはちゃんと迫力あって怖い。老若男女の立ち絵は表情豊かでデフォルメ加減もちょうどいい万人向け。

読了した今思うのは、色数を絞ったのはあざみと廻屋の髪色や目の色の特定を防ぐ目的もあったのかな。同色かはわからないけど、フルカラーだったらプレイヤーのメタ推理で結構気づきそう。

・解体システムも面白かった。因果を準拠立てて説明してくれるので親切。謎自体はそんな難しくないが解体したときのカタルシスもある。モーションも癖になる。

あざみーの手帳メモも振り返りにありがたい。プレイした時に多忙で再開に期間が空いたので、思い出すのに助かった。

◆【総評】

・キャラ萌えと最後の怒涛展開で絆されるけど、ロジックの完成度は気になる点もある。

公安の警視正という超エリートのジャスミンが廻屋とあざみの同一人物トリックに気づかなかったのか?(あざみ合流前からセンターで働いているならなおさら)、如月歩の復讐計画に無駄な点が多いところ(兄の好きなオカルトを利用したとしても都市伝説解体センターや本当に必要だったのか?復讐計画で必要だから生まれた”福来あざみ”という人格は復讐計画を妨げる行為が多い矛盾)、

など気になる点は結構ある。

・でもキャラと関係性と瞬間最大風速が良かったのでオールオッケーです。こういうタイプ以外は首をひねるかも。

・全体的にゲーム慣れしていない人にも向いている作品だった。一本道なのもそうだし、ゲームシステムも積むことは無い、親切さとベルトコンベアにならない程度の歯ごたえ。プレイ時間もそこまで長くない。

・このゲームはインディーズなんですが、バックに集英社ゲームスが付いている。なので発売前から宣伝がものすごかった。TGSで巨大なインスタレーション施設があったのが記憶に新しい、インディーズであの規模は普通むりだろ。

だからゲームにそんな興味が無い人でも、一目見たら惹かれるピクセルアートを目にしたんじゃないでしょうか。この作品へ多くの人の目に向けられて、それに納得するだけの評価も得ているのってインディーズゲームの未来って明るいとも思った。

・読了後に思ったこと。主題歌は女性ボーカルが低音と中音域を歌い分けているんですが、廻渉とあざみの伏線でもあったのかなー。

◆【余談】

・エンドロール後のあざみー。彼女は「今作でプレイヤーが観測した”あざみ”」ではない可能性もあるので、だとしたら無情な物語だ…。

あざみーもとい「福来あざみ」という人格が生まれた理由、如月歩の復讐計画の手助け(クローゼット入りとか)のために必要だったとか考えていますが、でもあざみーは復讐を止めるための行動をし続けているんですよね。SAMEZIMA管理人の正体を明かすあざみの解体とか、善としての心がずっと働いている。「あの子は何も知らない」と歩にも言われている。

だからラストの展開って「福来あざみ」にとってはバッドエンドだったんじゃないかなー、語り部としての「福来あざみ」はここでピリオドなので解体はできませんが…。

・ジャスミンとあざみの友情、シスターフッドとまではいかないけどその関係性に惹かれていた身なので、この真相は結構ショックだった。SNSのファンアートはみんなどんな気持ちで書いているんですか?

でもエンドロール後、犯罪者と公安という立場で再開するシーンはふつうに萌えた。あの場面って多角的で…。

・真相後は廻渉とあざみの関係性にそれはそれで萌えるな…、クロックタワーGHの主人公すき。

あとミステリアスオカルト青年とほわほわフリフリ服少女の組み合わせへの需要は世の中に多いので、そこをフックに読了した人ってどんな気持ちに…。

・逆転裁判と比較している評価を見かけたので言及します、逆転裁判シリーズ大好きなので。ネタバレではない。

逆裁、特に逆裁1~3は霊媒要素がトリックに組み込まれていて、オカルトはオカルトとして処理されているけど、

それはそういった一種のギミック、例えるなら自動で鍵がかかる電子キーがあります的なそういう仕組のものがあります、と事前に提示されているので推理としてはフェアだと思う。だから今作と比較して正当性を示しているのは首をひねった。

@vacances
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