
ジャンル:呪術伝奇ヴィジュアルノベル
キャッチコピー:地獄に最も近い場所(しま)。
・オカルトやクローズドサークルものが好きなうえに、キャラデザ「はましま薫夫」さん+原画「のりざね」さん+メインライター「昏式龍也」さんにサブライターで「和泉万夜」さんも加わってクロアプ新作ときたらワクワク。情報初公開からかなり楽しみにして発売日付近で買った。 が、多忙が重なり数ヶ月積んでた。最近私事が落ちついたので読了!
あとクロアプの2024年時点の著作権規約を拝読したら、規約を守れば数枚程度ならゲーム画面を引用するのは問題ないので、新作だけどスチルも少し掲載しています。終盤のネタバレスチルは無い!

かっこいい /転載禁止・引用元©CLOCKUP
・おもしれ~~~~~~~でも惜しい、惜しすぎる。でもおもしろかった。 往々にして美少女ゲームってシナリオが粗雑でもヒロインの魅力や性癖が合致したら満足度高いものだと思っているんですが、この作品は逆。 ヒロインの魅力が…低くはない!でもシナリオが面白いうえに男たちが濃すぎてヒロインが負けている、ともすれば舞台装置に感じられてしまう、そこが惜しかった。ヒロイン以外は満足しているから出てしまう欲。
・プレイ時間はコンパクト、7時間くらい? 短いながらもギュッと詰まっていてダレない。展開のテンポもいい。 長さも相まってスペクタクル巨編ではない、というか二ツ栗家の呪われた因襲がメインだから、言ってしまえば何世代も巻き込んだ大迷惑お家騒動が中心なのでミクロな物語ではある。
吐月編、文鳴編、過去編、を順に追うようなシステムで、それぞれの物語に小さな区切りが毎回ついていて読みやすい。 私がフルタイムの労働後に毎日ちょこちょこ進めていたので、このシステムはありがたい。時代を遡ったり、複数人が交差する群像劇なので、読んでいて頭が絡まないのは助かった。
・シナリオについて

詠唱毎回かっこいい /転載禁止・引用元©CLOCKUP
・40代男性ダブル主人公というノベルゲにしては尖ったフォーマットから展開される呪術策略バトルはめちゃくちゃ面白くてクリックを止める目処を見失うくらい夢中になった。 中年男性を主人公に据えて魅力的に書けるのはライターさんの筆力。年齢を重ねていたからこそ死線を避けれた描写もあり、若い呪術師だとこのサバイバルはきつそう。てか死にそう。
ダブル主人公なのでどちらかが埋もれるのをすこし危惧していたが杞憂だった、タイプの違う男のかっこよさ、ハードボイルドが滲み出ている。それぞれの〇〇編が噛み合いながらも、まったく違う結末に進んでいくのは面白かったし、互いの因縁も濃くて良かった。
反面、ヒロインたちとの関係性は薄い。 そもそも島の件で利害の一致で組んだだけで、吐月は幼い頃の珠夜とすこし関係あるけどそれぐらいで、なんなら母親の月夜のほうが関係性構築されていた。偲やカノは進行形で関係構築はしているんだけど如何せん他が濃すぎる。文鳴のヒロインも実質槐だった。
・呪術、伝奇、因襲、パノラマ島奇譚に例えられるクローズドな島、自分の好きなアングラ要素てんこもりで楽しかった。呪術の蘊蓄、解説がときおり挟まれるのもライターさんの知識の確かな蓄えを感じられて良い。裏拍手が出るとオカルトものやっているなという実感が湧き出る。 申仏島と二ツ栗家という世界観も良かったね。平成と令和のあいだの年号が舞台で、それに意味があるシナリオなのもよかった。コロナって呪いだったんか…。 バトルもあるが斬った張ったの活劇ではなく、詠唱が挟まれて即死、みたいな戦略の色のほうが強い。例えるなら山田風太郎忍法帖シリーズみたいな感じ。事前準備の周到さや能力の相性で速攻でケリが付く。 熱い呪術バトルや肉弾戦という燃え要素はあるんだけど、呪術の戦闘は終盤以外は結構乾いているかも。
・売春島を舞台にしているのもエロゲならでは。 そういえば売春島って実在してたのか気になって調べたら三重県付近にかつてあったらしい、へー。今作の舞台である申仏島は瀬戸内海にある嶼(しま)なので場所はだいぶ違うが、ここからインスパイア受けた部分もあるのかな。 と思ったら本編で触れていた。

転載禁止・引用元©CLOCKUP
・クロアプ作品なので残虐表現はとても多い。システム機能で表現緩和のラジオボタンがあるほど。 クロアプ作品は羊狼しかまだやってないから比較対象はそれだけになるんだけど、リョナというかグロが多かった。呪いがテーマなので人のタガを超えた残虐描写が濃い。凌辱でヒロインが奴隷の快感になるエロゲ展開とか一切無いです、ずっと叫んでて声優さんってすげーとなった。和姦が挟まるとホッと癒やしになるほどだった。 声優さんもよかったね、みんなハマり役。スタッフコメントでシヅの声優さんが蛭のシーンで収録中に本当に嘔吐するかもしれないからエチケット袋用意していた(大丈夫だった)ってお話していて、あらためて声優さんってスゴい。強めのエロゴアがある作品に出演してくださる声優さんってプロだし演じてくれて作品が流通することに感謝だ。
・ヒロインについて
誇り高くも人間臭さのある呪われた一族の末裔令嬢とか、背中の入れ墨鬼に呪われ一蓮托生ながらも完全に食われる前に復讐を遂げようとしている流浪の人斬り女とか、設定はかなり魅力的だけど男たちの活躍が濃すぎた。
偲は吐月編ラストで吐月の守護呪霊になるのはよかった、好きな展開。アフターが気になる。 珠夜は好みのキャラクターだったけど、戦闘特化ではない立場なうえに、色んなことに巻き込まれてその中でなんとか自分を奮い立たせて手綱を握ろうとしている、受け身っちゃ受け身の立場だったから、能動すぎる男や祖先が跋扈する本編ではパンチがあんまり無かった。かわいいんだけどね。
あとパッケージにいない時点でなんとなく察していたけれど、カノや姫奈はサブヒロイン。ここ惜しかったな~~~~。 2人とも魅力的なフックはあったのにほぼエロ人員だった。甘ったるい皮を被ったしたたかな夜の美女、外れた倫理観と純朴さが共存している小麦肌の少女、これでエロ特化だけなのはもったいない。特に姫奈。 吐月編終盤のVS偲で夜の女の矜持悪態が結構よかったから、もっと人間性やまっとうな活躍を見てみたかったなー。シナリオ後半が刑部のペットの印象しかない。

このビジュすき 転載禁止・引用元©CLOCKUP
ルックスの系統も年齢も、生きている世界がそれぞれ違うヒロイン4人が同じ場所に座っているキービジュがかなり良く(上記に引用)、わたしはこれにかなり惹かれて今作を購入してデカい布付きの特典も買ったので、ヒロインたちがわりと舞台装置だったのは気落ちかも。そういえば彼女たちが会話したり交差することは基本無かった。偲と姫奈が戦うとこくらいか。 選択肢なしの一本道なので活躍しないキャラは薄く感じてしまうのが残念だった。でもこの作品の無情さ、不可逆さを描くなら一本道でよかったなーとも思うから難しいところ。
・総評
私が発売前から楽しみにしていた美少女ゲーム、つまりヒロインの魅力も期待していて、なおかつ事前情報やパッケージから男女バディの気配も勝手に感じていて、蓋を開けたら男と男の因縁や男のキャラの濃さが圧倒的濃密だったので「惜しい」という言葉で評しているけど、上記を承知なら買ったほうが良い。
つまり、この感想を読んで買うの迷っているひとがいたら、有象無象の感想で判断するより作品を買って味わってほしい、物語としてはめちゃくちゃおもしろいからさー。
美少女ゲーム市場が落日といっても過剰ではない令和に、アダルトゲーならではの表現が無いと成り立たない新作を発売してくれることに感謝だ
酸いも甘いも噛み分けた2人の男のピカレスクロマン、陰鬱な呪術と燃えるような因果の末を観測してください。
キャラ感想(敬称略)
・文鳴 啾蔵 CV : ニコイチ
48歳の呪術師おじさん、主人公でありイケオジその1。
非情なドライおじさんだと思ってたら情に熱い男だった。かっこいい。ライターさんもスタッフコメントで言っていたけど「鏖呪ノ嶼」って文鳴が主人公の完結映画なんだよね。
「信念や守るべきもののために命を捨て、激しく散っていく男」
最後に主人公が死ぬ結末を許される単発の劇場映画『二ツ栗家の一族』
スタッフコメントのライターさん発言の引用
呪詛の世界において、死者の力には生者は敵わない、と幾度も描写されていたのが、文鳴が刑部によって反魂された死者というロジックで匹敵するのカッコよかったし、なにより厭世的だった文鳴が「今生きている人間(おれたち)の可能性(ろくでもなさ)を、舐めるんじゃねえぞォォ──ッッ!!」とシヅにトドメを刺したのはアツい。一種の人間賛歌。 死後の世界で槐と再会したのも良かった、これから地獄行きなんだろうけどずっと一緒。文鳴 啾蔵という男の人生を追った作品として完璧だったな。
あと、文鳴編で印象的なのは、
呪いとは祈りのことでもあり、祈るということは物語の因果を超える願いを持つということである。
例えば、どうしても成就させたい恋があるとする。 恋が叶うためには、相手を思う己の気持ちだけではどうにもならない。 懸想する相手の心象や嗜好、時や場所などの巡り合わせといった様々な条件が都合良く噛み合わさる必要がある。 それの噛み合いの道理が、すなわち因果の”因”。 まず”因”の成立があって、初めてその先に”果”は生まれる。
だが呪いとは道理である”因”を無視し、まだこの世には生まれていない……それも己に取って都合の良い”果”のみを引き寄せたいと欲する心のこと。 そして、その呪いを叶える手段を呪術という。
当然ながら、道理には反している。 だが世の中の多くの人間は、そんな道理に反する結果だけを望んでいるのも事実だろう。
そうでもなければ誰も神仏に願を掛けることはないし、運任せの賭け事に銭を投じることもないはずだ。
この解説。 いま、呪物蒐集録という本を読んでいて、あとがきで呪物収集家張本人の田中さんが「呪物とは呪いを籠めた物でもあるますけど、何かを願った物でもあります」と記しているんだけど、やっぱ呪いと祈りと表裏一体なんだ、と。これって吐月編で吐月の哲学の「幸福と不幸は表裏一体」と照らし合わせたような思想なのかな、と考えたりした。

転載禁止・引用元©CLOCKUP
スクショを見直していたら、序盤に「インターネットという因縁、呪い」の布石が出ていた。 ラストバトルで文鳴がスマホを出したとき、自分は「ス、スマホ?!」ってちょっと面白かったんだけど、シヅもビビっただろうな。 呪術自体、古い時代からの人の思いや歴史や知識を重ねていった文化で、二ツ栗家を筆頭に「古さ」に縛られていた末が現代の文化であるスマホもといインターネットがすべてをブッ壊すのってメタ的な視点もあって面白かった。スマホが出たのはファニーの意味で笑って、こっちの「面白い」はインタレスティングのほうね。
・吐月 完 CV : いなりうづき
40代イケオジその2、43歳本編でカノにイケオジって言われてたからルックス的にもかっこいいんだろうね
幸福と不幸は表裏一体の哲学が良かった。 吐月編って愛した女が全員死ぬのに対して、文鳴編はその女たちが全員生存するが、ライターさんがスタッフコメントで「守るべきものや理想を全て失っても、しぶとく行き続けていく男」で描いたと明言しているので、納得。 女と男の関係は呪いで、この女(のろい)を背負って生きていく、で鬼もとい偲の入れ墨が入った吐月のスチルで〆るのカッコよかった。映画的。
主人公が途中で死ねない宿命にある長期連載漫画『呪術師吐月完』の一エピソード『申仏島編』
スタッフコメントのライターさん発言の引用
これ普通に続きが読みたくなる。
・苦松 刑部 CV : 竜太丸

転載禁止・引用元©CLOCKUP
ヤバいよ。
最初は渋おじベテラン呪術師だと思ってたらとんでもないやつだった。こいつ暴れすぎ。でも、あらゆることにストイックだし、いつも本気なのは揺らがないから魅力的な悪役に昇華されていっていた。 戯れっていうか、殺ること成すことメチャクチャすぎる狂人だけど、頭は回るし肉弾戦も強いし呪術の実力は確かだし、こういう人間がいちばん厄介だ。吐月編ではラスボスなんだけど、偲関連の父親ヅラ発言がシュールな笑いを誘う。
・二ツ栗 珠夜 CV : 藤野むらさき
呪われた一族の令嬢。
かわいかったけど文成編のヒロインって実質槐だからいまいちパンチに欠ける。 腹を決めたのがかっこよかったけどやべー親戚とかやべー鬼神とか凌辱されまくってた印象。でも和姦があってよかったし、その本編唯一の相手が文鳴なのは萌え。一回目は無理やりなんだけど、その中でも文鳴が槐のことを考えながら自分を犯していることに気づき、指摘するシーンは良い。女が男に支配されながらも流転するシーンはいつだって良い。
珠夜自身は本来なら善良な女性だったろうけど、二ツ栗に生まれてしまったのが運の尽きで、わたしは(珠夜は好きな人物だから悲しいけど)二ツ栗一族は滅んでも仕方がないな…罪なき女性たちをたくさん犠牲にしているし…と考えているので、吐月編の全滅は納得。でもその因果、運命をひっくり返したのが文鳴という男の生き様そのものなので、ならしゃあないなとも納得。
・火蛾 偲 CV : 葵時緒
背中の鬼に呪われながら復讐に生きている人斬り。
ヒロインのなかで唯一の戦闘人員。ふつうの女子高校生だったのに刑部のイカレ行動で人生ぜんぶ狂ってしまった被害者。なにげにどちらのエンドになっても復讐の本懐は遂げている。 背中の鬼が凶悪なので過去以外は凌辱シーンが一切無い。呪いと呉越同舟しながら生きているという設定はかなり好み。つっけんどんだけど結構気の良いねーちゃんで、性的なことに興味なさそうだったのに吐月との愛あるセックスで素直になってたのがかわいかった。声優さんの演技も良かった、強い女に見えて柔らかさのあるところ。
・兎口 姫奈 CV : 今谷皆美
甘いルックスの売れっ子娼婦。
セックスで強い女の気質を見せて期待していたら中盤以降は刑部のペットの印象しかなくてガーン。屈服する過程が見れるわけでもなく洗脳!淫売ペット!あと戦闘も強い!に即変わったのでガーン。二ツ栗の遠縁、関係者とはいえ呪術の非日常とは疎い人間なので、自分から首つっこんだとはいえ巻き込まれた被害者だった。
・カノ CV : 綿雨たべ子
異常集落で生まれ育った憑き物筋の床上手の美少女。
吐月編の初っ端から前立腺マッサージされて圧倒されたものの思ったより素直でかわいかった。もっとメスガキだと思ってた。ここで父娘プレイを持ち出したら吐月が萎えるモラリストなのがエロゲでは新鮮。
解毒セックスのピロートークで「でもカンちゃんは、あたしに流れているそんな悪い狗神の血にも……あたしの背負った”呪い”にも勝てるんだね」「素敵……好きよ、カンちゃん」「ねえ、このままあたしをお嫁さんにしてくれない?一生懸命尽くすからさぁ……」のあとに「ふふっ、なーんてね。困ってる困ってる」と冗談交じりに告白するのが、カノのクレバーないじらしさを感じて良かった。 過去編で自分の過去を独白して客がドン引きしたときも「なーんて」みたいに冗談!で片してた。ワガママを言っても差し支えない年代なのに、そういう生き方じゃないとここまで来れなかった人生を感じる。
吐月編では無垢な祈りによる身投げの共鳴でシヅ召喚に繋がるし、彼女の行動が無かったら吐月は積んでたからなにげにキーパーソン。というか祈りが呪いの存在であるシヅに届くって表裏一体の部分もなにげにあらわしていたのかも。 亡くなったけど獣霊になってカンちゃんに懐いている描写があるし、長期連載漫画『呪術師吐月完』が進んでいくにつれて活躍する展開とかあるんだろなーとか思いを馳せた。文鳴編では島で売れっ子娼婦として活躍しているので、そっちはそっちで純粋によかったなーと思った。
あと男性(主に性愛)に囲まれて育ってきたから女性からの愛、母性とか向けられたらどうなるのかはちょっと気になった。カノにとっては未知のものだろうし、本編で女性同士で深く交流を重ねるって基本なかったから。
・荒忌 善次郎 CV : ハリーマオー
エセ関西弁のおちゃらけ極道、香具師系の呪術持ち。
コイツいいキャラしてた。呪術なんて別世界ですわーみたいなスタンスしてて自分が超強力呪術の一員だったのアツい。不死の呪術を受けていて、自分が致命傷を追っても盃を交わした構成員が代わりに死ぬことで自分が生き返る(その代わり荒忌も同じ事象の対象)なの、強い。コイツも長期連載漫画『呪術師吐月完』で活躍編あるだろ。人気投票とか結構たかそー。
・塔婆 不二彦 CV : 志藤春道
生真面目な美形ボディーガード。
刑部に「おまえに呪術の才能は乏しい。持って生まれた性質が善良すぎるのだ。呪を扱うには、人間としての歪みのようなものが足りん」と評されていたけどその通りだった。吐月編ラストで上戸が解放されたときに珠夜への支配欲や性欲ではなく、ただひたすらに守護をする一念を突き通したのは感動。いいやつだな…。
てか珠夜の声優さんがキャストコメントで触れていたように、珠夜って不二彦のヒロイン。珠夜は不二彦を「深い絆と友情」で信頼しているし、不二彦は珠夜を「欲望の対象に貶める妄想なんて一度たりとも。健やかな幸せに向かう手伝いができればそれで満足」で、おたがい恋慕は無いんだけどね。まあ文鳴のヒロインって正直なところ槐だから、その差異がヒロインのパンチの弱さにも効いているのかも。 文鳴編ラストでは殺人を犯したことで歪みが発生し呪術の才が目覚めるし。