『三河物語』を読む。安彦良和の手で描かれる大坂冬の陣・夏の陣は絵になるなあ。全国から大阪に諸大名が集まり、色とりどりの旗が立ち並ぶ、その光景の壮観さ。月並みな言い方だけど、戦争は悲惨でも戦争画は美しい。
『三河物語』の中心にあるのは合戦の話ではなく、当時の幕閣間の政争についての物語だ。侍になろうと田舎から出てきた若い男が、忠義に厚い旗本の下で働くが、武から文へと移り変わる時代のなか出世闘争に明け暮れる旗本に疑問を抱き、侍を諦める話である。そして老いた主君家康につかえる家臣たちの、彼ら自身の老いの話でもある。かなり地味な作品だけど江戸期にはベストセラーだったようだ。当時は政治に興味を持つ庶民の層が広まった時代でもあったのだろうか。