「研究者というと、変な人が多いんでしょう」
よく言われる。否定はしない。エピソードはいくらでもある。人に言わせれば自分もまたその仲間なんだろうけど。
打ち合わせをしていると、興奮して立ち上がり威圧するように迫ってくる人がいた。1歩下がると向こうも1歩前に出て、そのままぐるぐると部屋を3周したことがある。3周歩いてようやく「まあ落ち着け」と座らせることに成功した。やれやれ、ひと仕事終えた気分であった。
また、隣のミーティングテーブルでいつも怒鳴り合いをしている人たちがいた。ああいうの、なんとかハラスメントに該当してたんじゃなかろうか。実際その片方は心の病になって退職してしまった。残った方は研究所のハラスメント対策委員であった。
こういうのは序の口である。
ひょっとすると若い方は知らないかもしれないけれど、〇〇細胞捏造事件というのがあった。iPS 細胞のような、でも全く新しい幹細胞の作り方を見つけたということで、科学誌 Nature 本誌に論文が2報同時に掲載された。多くの研究者は、姉妹誌ならまだしも本誌の方には縁もゆかりもないというのが正直なところではなかろうか。しかも2報同時である。多くの研究者が注目したが、しかし世間ではそこじゃなく、テレビ映えのする割烹着の演出がもてはやされた。
その論文を読む前、テレビで報道されるその研究者が話す姿を見てすぐさま、「ホンモノの天才か、それともちょっと〇〇か、どちらだろう?」と思った。話し方や挙動が知り合いを彷彿とさせた。知り合いの方は残念ながら後者である。そして残念ながらあの当事者も後者であることが後に明らかになった。
躁鬱気質というのか、気分が波のように変動する人もいる。ずっと教授室にこもっていてしばらく顔を見ないと思ったら、急に明るくなり、実験室にやってきてビールを飲みながら実験を始める先生もいた。始めたのはいわゆる殿様実験である。大学院生に細胞を準備させ、別の学生に「〇〇因子を入れろ」と指示する。「濃度は?」「適当でいいよ」...良いわけがない。細胞の応答が濃度によって変わることは教科書に載っている。先生も講義しているよね。そしてそ実験結果がどうだったか、誰も聞いていない。
研究費がふんだんにあるわけではないから、節電しましょうね、と新人に説明してしばらくして実験室に行くと、機器の電源プラグが全部抜かれていたこともある。辛抱強くなぜ電源を抜いてはいけないのか、説明しながら全てのブラグを元に戻した。
こういうネタはいくらでも語れる。でも、こういうのは研究者には限らない。居酒屋で一人酒を飲んでいると、説教をしてくるおじさんというのもよく見かける。相手に喋らせないよう、常にターゲットの発言に大声で被せて喋るような人も珍しくない。世の中は変な人だらけだ。もう十分変な人を見てきたから、だいたいどのタイプかわかる、などと勘違いしていると、また見たことがない新種の変な人に遭遇する。人の多様性はすさまじい。生物多様性である。
平穏な暮らしをするために、極力、変な人には近づかないようにしている。