『カラオケ行こ!』『ファミレス行こ。上』

くろこだ
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※漫画と映画の『カラオケ行こ!』、漫画『ファミレス行こ。上』と、その最新話である10話のネタバレありの感想

『カラオケ行こ!』

『カラオケ行こ!』実写化映画を見てきた。以前から気になっていた漫画で、でも楽しみは取っておきたいと思って読まずにいたのと、あらすじを見ていて受けた聡実くんと狂児の印象が実写化の俳優さんと違っていたので映画は見るのを迷っていた。見に行った人が面白かったと言っていたり、監督と脚本を担当されるお二人の名前を見て期待感はあったのだが、重い腰を上げた決め手は朝のニュース番組で橋本じゅんさんが『行くぜっ! 怪盗少女』を歌っているシーンを見たから。しかも振り付きで。…これは、行くしかない……!

上映終了するかもしれない焦りはあったが、やはり原作の漫画を読んでから実写化映画を見たいと思ったので、急いで漫画を購入。本当は紙の漫画本が欲しかったけど映画人気なのか近所の本屋には在庫がなくて、電子書籍で読んだ。(お気に入りの漫画は手元に残しておきたいので、後日紙の漫画本も買った。)めちゃめちゃ面白い〜〜!!なんで今まで読んでなかったんだろうと後悔した。人生、いつ何があるか分からないんだから、楽しみを取っておくよりも今楽しまなきゃダメだよな…。原作漫画ですでに『行くぜっ! 怪盗少女』を歌ってるシーンがあるんですね。ありがとう和山先生。

原作漫画をそのまま実写化したというよりは、実写化チームが原作に最大限の愛を持って作った映画だと思う。原作漫画のシュールな感じは映画ではあんまりなかったように見えた。でも映画オリジナルのシーンがどれもこれもすごく良くて…!!漫画は漫画、映画は映画の良さがあって楽しめた。映画は中学生である聡実くんの心境によりフォーカスしているというか…この作品はすごく良い青春映画だと思います。映画版の解釈も好きです。

この映画で一番のお気に入りシーンは、【愛】って何だろう?と考える聡実くんのシーン。映画を見る部の栗山くんに「愛 言うんは与えるもんらしいで」と教わるも、家に帰ってもどういうことなのか思案顔で食卓に座り食事をしている聡実くん。ふと目の前の母が焼き鮭の皮を綺麗に剥がし、隣に座っている父のご飯の上へ焼き鮭の皮を乗せる。いつもそうしているのだろう。何も気に留めることなく食事を進める両親。その自然なやり取りに、何か気付いたような表情に変わる聡実くん。日常の光景が特別なものに見えてくる瞬間。アップになるほかほかご飯の上に乗った焼き鮭の皮。伴奏が流れ始める。合唱曲は『心の瞳』。

愛すること それが

どんなことだか わかりかけてきた

愛のすべて 時の歩み

いつも そばで わかち合える

心の瞳で 君を見つめれば・・・・・・

(作詞:荒木とよひさ 作曲:三木たかし『心の瞳』からの引用)

う~ん、最高。本当にこのシーンが好き。山下監督も脚本の野木さんもマジで天才。映画史に残る名シーンだと思う。このシーンをまた見たいが為に複数回映画館へ見に行ったようなところがある。それくらい心に刺さった。

『心の瞳』、私も中学生の頃に合唱したなー。同学年だけの合唱祭みたいな催し物で別のクラスが『心の瞳』を歌って優勝していたような。違う年には別のクラスが『怪獣のバラード』を歌って優勝していたような。遠すぎる記憶。 歌詞を調べていて分かったのだが、『心の瞳』って坂本九さんの遺作だそうだ。知らなかった。

聡実くんが狂児って本名なのか尋ねるシーンも良かった。自分の名付けの経緯を話した後に、「聡実くんは聡い果実やからな。大丈夫や。」って台詞が……。ね……。聡い果実………(天を仰ぐ) ちなみに、感想を残しておきたくて書いた一番最初のメモが、「聡い果実……」だったよ。ダイイングメッセージか。

色んな人の感想や考察を見ていて、この聡い果実発言が原作の苺のシーンにかかってるのかも説があったの良かったな。いい考察を見た。

ジャンルで分けるなら「青春映画」なのかな。「初恋」というワードも浮かんでくるけど、どうなんだろう。これって聡実くんの初恋?って思えるような描写が散りばめられていた気がして。でも名言されてないので受け取り方次第なのかな。分からない。何も分からないよ。

これも映画オリジナルシーンで、『紅』の英語の歌詞を和訳するシーンも好き。「ハートがめちゃ痛い」「ピカピカや」は映画を見終わった後でも脳内で繰り返し再生している。和訳シーンがあったことで、聡実くんが狂児に捧げた『紅』歌唱シーンがより強烈で鮮明なものになっていると思う。途中で出てくる狂児との回想、破壊力すごい。宇宙人(ヤクザ)に絡まれた時に助けてもらったシーンが、さっきまで我々観客が見ていたものではなくて、聡実くん目線で見た狂児になってるの。屋上で聡実くんの眼鏡と狂児のサングラスを交換して笑い合ってるシーンもあった。新規シーンもぶち込んでくるなんて。どういうことだよ山下監督。一番びっくりしたのは、聡実くんの歌声を聴いている狂児の顔が映ったところ。聡実くんが自分へ捧げる『紅』をどんな顔して聴いているのか、漫画にはなかったのに。あえて描かれていないシーンだと思うので、自分で想像するしかなかったんだよね。それが、映画では映っている。不意打ちすぎて、自分の願望で幻覚を見ているのかと思った… あのシーン良かったな… 狂児、あんな顔、するんだね…… ありがとう山下監督。

聡実くんを演じた齋藤潤さん。雰囲気がどことなく岡田将生さんみたいだな〜と(特に下からのアングル。鏡で喉仏チェックしてるシーンとか。)ぼんやり思ってたら監督が山下敦弘さんだったことを思い出して、あぁ~だからか〜と納得した。 齋藤潤さんの瑞々しさ。綾野剛さんや他のヤクザ役の俳優さんたちと並ぶと、中学生とヤクザは絶対に交流してはいけないと認識を強くする。ヤクザに囲まれて怯える様子や、カラオケ店でチャーハンを頼んだ時の受話器を戻すぎこちなさや、組長の罰ゲームが嫌なら好きなものを嫌いと言い続けたらいいんじゃないかと提案する時の、世界で自分一人だけが気付いたかのような閃いた表情とか…まだ俳優としても成長途中のあの時にしかできない、演技というのか自然に出てきたものなのか、あの時の齋藤さんが演じた聡実くんだからこその良さ、みたいなもの。演技が上手すぎない良さ。ナチュラルに岡聡実が存在している感じ。そういう表情を引き出した齋藤さんも、そういう場面をきっとあえてセレクトした山下監督もすごい。

合唱部のパートを掘り下げて描かれていたのが好きだ。生徒役の俳優さんたちみんな上手い。あの年頃の不安定な感じを思い出して懐かしくなった。後輩の和田くん、愛しいね。副部長中川さんと和田くんのやり取りも面白かった。先輩たちにあんなに自分の気持ちをぶつけられるの、眩しいくらいに羨ましい。和田くんもいつかソプラノが出にくくなって、あの時の岡先輩のことを理解できる日がくるんだろうか。映画部の栗山くんも良かった。ずっとあの距離感で接してくれる友達、いいよね。

聡実くんが忘れていった傘を狂児が学校へ届けに来る前の、教室のベランダで中川さん達女子生徒4人が楽しそうにお喋りしているシーン。 「50点より上?」「んー…上!」  この「んー…上!」の台詞の時の視線の外し方やちょっと勿体付けていたずらっぽく笑う表情がめちゃめちゃリアルで大好き。見たことあるしやったことある顔。この数秒のシーンで一瞬だけ中学生だったあの頃に引き戻される感覚になった。懐かしい〜〜。字幕付き上映を見て分かったことは、この台詞を言っていた生徒の名前は蓮沼さんで、演じた俳優さんは紅里さんということ。関西弁でお喋りする女子、ツッコミも含めていいな~と思った。関西圏ではないので関西弁に憧れがある。中川さんの仲良しグループ4人のスピンオフがあったら見たい。

芳根京子さんが先生役だったのは驚きと、きょんちゃんもついに先生役を演るようになったんだ…!という謎の感動があった。この作品のテーマの一つであろう【愛】についての台詞を、フレンドリーで軽い感じのももちゃん先生が言っているのが良い。見終わった後にあの台詞がこの物語の核心をついていたのかなぁ…と思ったり。あと、ピアノの伴奏は本当に芳根さんが弾いてるように見えたんだけど、どうやら本当に弾いているようです。凄い!!

お目当てだった橋本じゅんさんの『行くぜっ! 怪盗少女』歌唱シーンは、なんと、2回もあったよ〜〜〜!!やったんぽぽ!! カラオケで流れていたのは5人バージョンでした。後輩に付き合ってもらい、振りも完璧に練習して臨んだのにカットされてた~という舞台挨拶の映像を見た。

監督によると、出来過ぎちゃっていてダメだったらしい。毎年歌ヘタ王になる兄貴役なのでそりゃそうか。本編ではいい感じに下手な歌とダンスでした。 新感線の舞台に行った時にももクロをパロった小ネタをやっていて、いつか新感線の舞台に客演で出る日が来たらいいな…なんて夢見て数年経ちますが、こういう形であっても掛け合わせが見られたのは嬉しい。やったんぽぽ!!(これはアドリブじゃなくて、野木さんが考えた台詞なのかな?カワイイ)

綾野剛さんにはずっと苦手意識がある。昔の役をいつまで引きずってるんだと思われそうだが、ドラマ『Mother』で芦田愛菜ちゃん演じる継美にイタズラしたクソ男という印象がずっと頭にこびりついて離れないのだ。綾野剛という俳優を初めて見たのがあの作品だった。今でも綾野さんを見る度に、あのシーンがフラッシュバックするくらいには強烈に印象に残っている。そんな気持ちを抱いているので、また苦手意識が強くなったら嫌だな~と思っていたのも映画を見るのを迷っていた理由の一つだった。でも、原作を読んで感じた成田狂児という男の底知れない薄気味悪さと、綾野さんが演じる成田狂児の薄気味悪さがピタッとハマっていて最高だった。普通にヤクザだし、普通に恐いじゃん。絶対近寄りたくない。ヤクザと中学生は出会ってはいけない・住んでる世界が違うんだよという当たり前のことを、実写化されたことにより、リアルに実感する。知らない人について行かない!いかのおすしだよ、聡実くん。

綾野さんの演技で凄い所。狂児の話し方や仕草、まばたきのタイミング、人との距離の詰め方で成田狂児という男が人心掌握に長けた人だというのが分かる所。どこまで演出で指示されてるんだろうかと思うほどに自然。特にまばたきのタイミングが好きだった。

好きな作品に出会うと解像度を上げたい欲が出てきてしまい、音声ガイドと字幕付き上映でも見た。音声ガイドは、狂児の名付けのシーンで『狂児』になる過程を「アレンジ」って説明していて吹き出しそうになった。字幕付き上映はシネマシティで見たんだけど、同時に極音上映でもあったのでめちゃお得だった。極音上映、合唱はもちろんより綺麗に聴こえたんだけど、ヤクザたちのカラオケもいい音になっていて面白かった。あと、たんぽぽの兄貴の怒鳴り声の音量がヤバかったです。

特に字幕は色々と発見があって良かった。(記憶違いがあるかもしれないがメモ) 聡実くんと狂児が出会う前までは〈雷鳴〉だったのに、出会うシーンでは〈落雷〉となっていた。合唱曲の歌詞も字幕で出ていて、冒頭のシーンと、聡実くんの生活に狂児が段々と入り込んでくるあたりとで2回流れる『影絵』。(作詞:覚和歌子 作曲:横山潤子 『影絵』 https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?id=545870)正しい歌詞が分からないので引用できないが、リンク先にある合唱の動画を見て、改めてすごい歌だと感じている。字幕付き上映を見た時、『影絵』の歌詞と聡実くんの心境がリンクしているのかと気付いて鳥肌がたった。あと、合唱しているシーンで段々と聡実くんがアップになる箇所があるんだけど、ソノ歌詞の所で聡実くんをアップにするんだぁ〜〜そこチョイスしますか〜〜いやマイッタねって唸った。劇中に出てくる他の合唱曲も、聡実くんの心境や情景とリンクしてるんだと思う。地獄に行くと自覚している狂児と、天使の歌声に出会ったと言われた聡実くん。2人が落ち合う場所は《カラオケ天国》 ……こんなぴったりな曲、よく見つけたな~。凄すぎ。

有識者の感想・考察を読むと、映画を見る部で流れていた作品も、その時の聡実くんの心境や情景とリンクしているらしい。こういうところは実写化・映像化の良いところだと思う。

聡実くんの純真さや真面目なところや子供らしい部分を、時にからかいながらもちゃんと受け止める狂児や祭林組の皆さんの眼差しが良かったな~。

楽しい作品に出会えて良かった。もし『ファミレス行こ。』も実写化するなら、原作が完結した後に同じスタッフ&キャストでやってもらいたいです…!

『ファミレス行こ。上』

漫画も映画も面白かったので、こちらも楽しみにとっておいた『ファミレス行こ。上』を読んだ。

え、これどうなっちゃうんだろ…? 確認って何…?? 和山先生の考える "聡実くんの幸せ" って、何…???  ───── "聡実くんの幸せ" に、狂児は、いますか? ─────

大学生になってからの聡実くん、一日の内のどれくらい狂児のこと考えてるんだろうね。週5でバイトしてるのも、狂児貯金の為なんだよね?その貯金で、狂児の腕に彫られた〈聡実〉の入れ墨を消してもらうの?「普通の大人」になる為に、狂児とは本当にもう会わないつもりなの?

読んでて面白い気持ちと同じくらいに、聡実くんの大学生活があんまり楽しそうじゃなくて、笑顔もない気がして悲しくなっちゃった。聡実くんは狂児のことを考えてるけど、狂児は一日の内のどれくらい聡実くんのことを考えてますか?聡実くんが狂児のことを考えている時間と同じくらいの時間を狂児も考えてなきゃ、聡実くんが可哀想で怒り狂ってしまいそうだ。多感な時期に出会ってしまったこんな刺激的な大人なんだから、狂児には何かしら責任取ってもらいたいよ……。聡実くんをソッチの世界に引きずり込んだのは狂児なんだからさぁ〜〜〜。聡実くん、狂児の仕事がヤクザじゃなければ今後もずっと会いたいだろうに…。 狂児、どうすんの?聡実くんの気持ち、気付いてるでしょ?責任取れよ(怒)(泣)(怒)(怒)(怒) 狂児なりの聡実くんへの優しさや配慮、本人に伝わってないと意味ないよ。ちゃんと分かりやすく伝えてあげて……

聡実くんの本心も分からないし、狂児の本当の気持ちも知らないから、2人がどういう関係になりたいと望んでいるのかは分からない。だから上巻を読んだ限り何も分からないので、別に2人に恋人になってほしい訳ではないけれど、他人に2人の関係を説明するときに「甥っ子」とか「親戚のおじさん」って誤魔化さなきゃいけないような関係ではなくなってほしい。「友達」じゃダメなの…?

完結してない漫画を読むと、続きが気になりすぎて情緒不安定になりがち。

ここに書いてて気付いたけど、『カラオケ行こ!』は「行こ」のあとに「!」 が付くのに、『ファミレス行こ。』は「。」なんだね。テンションの違い。カラオケ行こ!は狂児の言葉で、ファミレス行こ。は聡実くんの言葉のような気がするね。なんとなく。

森田さん、ただの漫画好きなフリーターかと思ってたら全然違った。酔っ払った時の聡実くんへの甘え方を見て、深入りしちゃダメな人だと思った。バンドマンだし(偏見)。北条先生のパートは何も気にせずただただ面白く読めて安心する。それにしても聡実くん、関わらない方がよさそうな人達に懐かれちゃうの、可哀想かわいいね。

『ファミレス行こ。』第10話

上巻が出るまでに約3年かかっているというファンのつぶやきを見かけ、下巻が出るまで大人しく待っているなんてどう考えても無理だろうということで電子書籍配信開始時間をカウントダウンして最新話が載っている本誌を購入。

さ、聡実くん………!!! 自分の中にある本当の気持ちと向き合おうともがいている聡実くんがかわいい。がんばれ…! 聡実くんのスマホの検索履歴が載ってるコマがあり震えた。やっぱり狂児と離れたくないんじゃないの…? 聡実くん、答えはすぐそこにあるよ。