KERA CROSS第五弾『骨と軽蔑』

くろこだ
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※ネタバレありの感想

めちゃめちゃ良かった…… "ケラさん作・演出で女優7人の会話劇"という時点で絶対面白いじゃん!しかも凄いメンバーだ!!と期待してチケットを取った。期待以上に素晴らしい作品だった。コロナ禍で大好きだった演劇鑑賞から遠ざかってしまっていたけれど、ケラさんの作品にまた足を運ぶことができて嬉しい。久しぶりに心にズシンとくるお話を観た。脚本も素晴らしいが、演じている7人の女優陣《宮沢りえ 鈴木杏 犬山イヌコ 堀内敬子 水川あさみ 峯村リエ 小池栄子》も皆さん素晴らしかった…!私が女優だったら(私が女優だったら?)なぜこの作品に出演できなかったのか悔しくて眠れないと思う。どの役でもいいから演じたかったと嫉妬する、きっと。

東と西に分かれて内戦が続く街。家の中にいても大砲の音が聞こえる。男性の兵士はもうほとんどいなくて、女性と子供が徴兵されている。舞台になっている家は戦争に使う武器を作って生計を立てている。ラジオから本日の犠牲者の人数が流れる。戦争で亡くなる人達と、戦争で生かされている人達…。 今の現実世界でも同じ様なことが起こっているので、とても他人事には思えなかった。客入れの音楽からして不安感を覚える不気味な感じだったんだよねぇ…。それでも登場人物達が繰り広げる日常は、私達とさほど変わらないように見えて。些細なことで姉妹が喧嘩していたり、妻と愛人のバトルがあったり、使用人が愚痴をこぼしながら仕事していたり。軍需工場を経営している家だから、安全圏にいるという気持ちもあるのかもしれないけれど。テーマは重く深刻に思えても、女性達の会話劇がとても面白かった。物語の転機になるのが 虫 だったのも面白かったな。突然のファンタジー。でもひょんなことがきっかけで幸運が続いたり、不幸から抜け出せなくなったりするものだよね、人生って…。そう思うと途端に気持ちが沈んだりした。ラストシーンが圧巻でした。救いのない結末に胸が苦しくなる。帰り道に思い出して泣きそうになった。本当に素晴らしい作品。

どの登場人物も魅力的だったけれど、一番印象に残ったのは、水川あさみさんが演じる軍需工場社長の秘書であり愛人のソフィー。社長は体調が思わしくなく寝たきりの為ソフィーが付きっきりで看病しているというのに、初登場シーンからテンションが高くて、何?この人…と不快感を覚えた。ソフィーの言動を見ている内に段々と、「こんな不安定な世の中いつ何が起こるか分からないんだから今を楽しく笑って生きよう!」のポリシーがある人なのかなと思えてきた。社長と奥さんが不仲で、愛人である自分に財産が渡るという目論見があったとしても。それが 虫 がもたらした転機によって財産は全て妻のグルカ(峯村リエさん)に渡り、ソフィーは落胆する。ここで一幕は終わり。二幕でソフィーはどうなっているんだろう?復讐でもするのかな?などと考えていたら、新しく社長になったグルカの秘書を務めていて驚いた。しかもグルカに、徴兵されないでね。あなたがいないと会社も私も立ち行かなくなるから。とまで言われている。グルカはそれまでの場面で誰かに依存しないと生きていけないような感じは見受けられたけど、妻と愛人としてバトルしていたソフィーにここまで頼っているとは…。ソフィーは頭が良い人であり、ずるい人だとも思った。そんなソフィーはきちんと秘書の仕事を全うしていて、全力でグルカをサポートしている。でも、虫 がもたらした幸福は永遠には続かなくて、不幸のターンがやってくる。ソフィーも徴兵された。軍服を身に纏い、出発の日。皆への挨拶はいつも通りの明るいソフィー。無事に還って来られたらお金が貰えるんだって!と嬉しそうに話していた。軍の迎えが来る場所まで1人で歩く中、空には大量の戦闘機が飛んできた。それを見て怯えて泣き叫ぶソフィー。旅立ちの挨拶をしている時は最後まで強い人だな…と思っていたけれど、ソフィーだって戦争は恐いんだ、死ぬのは恐いんだ。登場人物の中で自分とは最も遠いところにいる人だと感じていたのに、このシーンでソフィーへの距離がぐっと縮まって共感できる人物になった。水川さんのお芝居も素晴らしかったです。

東京公演はもう終わってしまったが、人にオススメしたくなる舞台だった。墓地の前で笑う7人の女 このポスターも素晴らしい。

「御来場くださった皆さま」の後に「気にかけてくださった皆さま」と続くのを見てホンワカしている。こういうところだよな〜。好きです。