はじめに
恥ずかしながら、私は「ここなら任せておけ!」という詳しい領域を持っていません。
成り行き上任された仕事の蓄積によって相対的に詳しくなった領域はいくつかありますが、特に創作に係る仕事に就いていながら創作領域において格別に詳しい領域を持っていないことに対してコンプレックスを抱いています。
一方で、妄執的に「"好きこそものの上手なれ"は真だ」というな思い込みがあり、好きなものを仕事にする人には勝てないし、できるならば自分もそうあろうとしてきました。
でも、結局のところ「自分はそういうタイプではない」と気付き、さらに皮肉なことに「自分自身のバリューはあまり詳しくない領域でもそれなりのバリューを発揮することだ」と意識するようになりました。
ならばせっかくなので、懺悔的な気持ちをもって、どうやって自分は自身が詳しくない領域でバリューを発揮しているのか(少なくともそう自覚しているのか)を共有しようと思ったのがこの記事です。
主に対象となっているのはWebサービスの開発・運営に携わっている方です。
情熱に対しリスペクトを持つ
実際のところ、ある領域でもっともバリューを発揮しているのはその領域に対して情熱があり適性もある人でしょう。 残念ながら自分ではそうはなれなくても、リスペクトすることはできます。
いきなり精神論ですが、リスペクトすることからすべてははじまります。 どのように仕事をしているのか、何に時間をかけているのか、どこをよく見ているのか、どんな言葉を話すのか。 それらに注目するエネルギーはリスペクト精神から湧いてきます。
そうして、彼ら真のプロフェッショナルの真似事、あるいはサポートをすることで、一定のバリューを発揮したり、プロフェッショナルにバリューを発揮させることに繋がります。
詳しい人に頼りすぎない
真のプロフェッショナルに見える人がいても、盲信してはいけません。 彼らにもなんらかのバイアスは当然あります。
真っ当そうな意見をいただいたとしても、実際はそれは上澄みの層にしか適用できなかったり、特定のニッチ・クラスタに偏った意見だったりすることがあります。
自分が詳しくないからといって、特定の"詳しい人"に頼り切りになるのはアンチパターンです。
ユーザーが求めているのは"改善"だけ
そもそもユーザーが求めているのは、必ずしも「詳しい人の手によるサービス」ではない場合があります。 別に誰が作っていようと自分たちのニーズを満たせばいいし、"専門家"による押し付けがましいUIや正確さの代償としての複雑な構成などは求めていない場合が往々にしてあるのです。
手に入れるべきは、ドメイン領域の詳しさ以前に、ユーザーインサイトであることが多いです。
そして改善できるのは自分(たち)だけ
ユーザーインサイトがわかっても、"ここ"にいるのは自分(たち)だけです。 もっと詳しい人、仕事ができる人、技術力が高い人は世の中にいるのでしょうが、今"ここ"にいて課題と立ち向かえるのは自分たちだけです。
嘆いたり救世主を待ったりしても課題は解決されません。 自分(たち)が解決するのだと腹をくくります。
逆に言えば、超絶プロフェッショナルではない自分の価値は、今ここにいて手を動かせるその点にあるのです。
要望を抽象化し、取り組むべき課題として昇華する
ユーザーがいろいろな要望を出してくれることがあります。 ただ、それらをそのまま採用できることは稀です。 ユーザーは問題解決に慣れておらず、自分以外のユーザーの存在も意識していないため、ベストな解決策ではないことがほとんどだからです。
そのため、自分の仕事は問題を客観的に整理し、極力汎用的な課題になるよう抽象化し、代替となるベストな解決策を模索することです。
意見ではなく事象を見る
ユーザーが「〇〇の作業が面倒です」という意見を言ってきたとします。 ここで「そうかあ、じゃあ変えなきゃ」とすぐに動いてはいけません。 「どこがどう面倒なのか、実際どういう作業をしていてそう思ったのか」を把握する必要があります。 それはユーザーに直接聞き返すことかもしれませんし、いろんなユーザーのログを見てみることかもしれません。
コミュニケーション上ユーザーの意見は大切にしたくなりますが、それに寄り添いつつもなにが起きたのか、本質的に何を求めているのかを知ろうとしなくてはいけません。
「僕が一番ガンダムをうまく使え……」ません
いろいろな課題を解決していくと、「なーんだ、そんなにドメインに詳しくなくても結構やれるじゃん」という驕りが出てくることがあります。 ここで「いっちょ自分がちゃっと解決しちゃいますかあ」と「僕が一番ガンダムをうまく使えるからさー」というノリで調子に乗ってはいけません。(元ネタのアムロは本当にそうかもしれませんが)
まずユーザーインサイトが大事で、ドメインに詳しい人の意見も大事で、解決策に詳しい人の意見も大事です。 自分はそれらの取り回しが多少できるだけで、やはり最も優れたパフォーマンスを出せるのは自分ではなくプロの手だと思い出します。 彼らを頼り、パフォーマンスを発揮してもらうために尽力します。
なんのためのサービスかに立ち返る
ユーザーが何を言い、詳しい人が何を言ったとしても、結局のところサービスを行く末を決めるのは自分たちです。 だからこそ、定期的に「自分たちはなんのためにこのサービスをやっているのか」に立ち返ります。
その原則から、なにをすべきかが見えてきたり、やろうとしていることが正しいのかを照合できるようになります。
要するに、くらいは言えるように
ドメインに詳しくなかろうと、「素人だからこそ見える視点がある」なんて寝ぼけたことを言っていてはいけません。 そんなものはほとんどないし、あったとしても自分である必要がありません。 自分にできる範囲でドメインに詳しくなるべきです。
ECなら出品作業をしてみる。 制作サービスなら拙くても制作してみる。 サービスの作り方を知りたいなら自分でプログラミングとデザインをして小さなものを作ってみる。 ユーザーとして自分のサービスを使ってみる。
できることはいくらでもあります。
そうして、難しいことはわからなくても「要するにこういうことかな?」という肌感をできる限り多くの分野で養っていきます。 それによって、いちいちプロの手を煩わせなくても自分でもある程度の物事を捌けるようになり、チームのパフォーマンスを向上させることができます。
おわりに
自分にしか発揮できないバリューを持てなくても、上記を意識することで十分自分ならではのバリューを発揮することはできるはずです。 がんばりましょう。