日々(2024/4/24)

わとそん
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ねこねこノープル発の夜行列車は東欧の広野を駆けてゆく。個室の照明をすべて消して窓の外を眺めると、一面に広がる暗闇の遠くに少しだけ光が見えた。列車は灯りの輝く小さな駅を通過して、私はなんとなくJR北海道の釧路〜根室間の沿線の風景を思い浮かべる。「もの寂しい」という言葉ではこの景色を充分に説明できない気がしていて、そもそも「寂しい」と「淋しい」の違いが私にはよくわからないのだけど、列車から望む暗い夜はこの世界でもっとも良きものの一つだ。眠りながらも生きている世界と、列車の音と、それを見つめる私そのものが確かにそこにはいる。本邦から夜行列車はほとんどなくなってしまったけれど、もしあなたがどこかで夜行列車に乗る機会があったとして、窓の外を過ぎゆく踏切の音と光あたりに何か感じるものがあったら嬉しいな。何かしらのありふれた言葉、あるいは写真加工アプリなんかでは伝えようのない素敵なものが、まだ世界にはいくつか残っています。万歳!

久しぶりに森見登美彦の『夜行』を読みたくなった。どんな話なのかを説明するのがもの凄く難しいのだけど、一応頑張ってあらすじを載せてみる。学生時代の友人の1人「長谷川さん」は、かつて鞍馬の火祭りの夜に忽然と消えた。それから10年。大人になった昔の仲間たちは再び火祭りの夜に鞍馬を訪れ、全国各地で出会った謎の銅版画にまつわる不思議な話を語ってゆく…こんな感じかな。以前この本を親愛なる同期に勧めたところ、「わとそん君が好きそうな設定だね」と言われた。仰る通りでございます。一応書いておくと、私の問題集の名前の由来でもあるよ。

だいぶ奇書ではある。私は2回読んだことがあるが、理解度はまだ10%くらいしかなくて、ただ間違いなく独特の魅力があるからどうにも忘れられない。作者は「夜行列車の淋しさを封じ込めた小説です 良い旅を!」とコメントしている。もしよかったらだけどあなたもどうですか?たぶんだけど部室のわとそん文庫にあるよ。

(2024/4/24)

@watson_art
冬の目標:雪の日に海を見に行く