『ルックバック』のわからなさ(ネタバレ)

whitesummer
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公開:2024/11/18

漫画を読み終わったとき、「この話をどう受け取ればいいのかわからない」と思ったのだけど、人の感想をあさる限りみんなこれを「いい話」として受け取っている様子だったので、そうか、そう受け取ればいいのか、と思った。きのうアニメ版を観て「いや、やっぱりわからん」と思い、しかし自分がなんか間違っている可能性があるので、思ったことを書いてみる。

現実世界で藤野と京本は小学校の卒業式の日に出会い、一緒に漫画を描き、やがて道をたがえる。藤野は漫画を描き続け、美大に進学した京本は通り魔に襲われて死ぬ。藤野は京本の死に強く責任を感じる。一方、ifの世界でふたりは出会わない。藤野は漫画の道を歩まない。現実世界と同じように美大に進学した京本は通り魔に襲われ、すんでのところを藤野に助けられる。藤野は小学校のときにやめた漫画をまた再開したことを京本に告げる。ふたりはこれから友達になると思われる。

「京本が死んだのは自分が外の世界に連れ出したせい」と藤野は思っている。実際のところ藤野が連れ出していてもいなくても京本は美大に進学していたのだけど、たしかに藤野が漫画家になる世界で京本は死ぬ。そして藤野が漫画家になったのは卒業式の日にふたりが出会って友達になったから。

あのif世界パートって「ふたりが卒業式の日に出会っていなければ、京本は死なないで済んだんですよ」という説明だよね。同時に「出会っていなければ、藤野は漫画家になっていませんよ」という説明でもある。また漫画を描き始めたと言っていたけど、今からプロになれるかと言われたらそれはわからないし。わたしは「だったら出会わなければよかったね」と思った。if藤野は健康そうで生き生きとしたお嬢さんだったし、漫画家になっていなければ死んでいたタイプとかではなさそう。漫画家になっていなくてもよかったんだと思う。じゃあ本当に出会っていなければよかったじゃんと感じてしまう。出会っていなくても二人ともそれなりに充実した人生を送ることができていたのに、出会ったせいで京本は死ぬことになってしまった。よくわからないと思ったのはそこのところなんだよな。これは「それでもわたしたち出会えてよかったよね」という話なんだろうか? 藤野にとってはもしかしたらそうかもしれないけど、京本にとってはどうなの?

でもわたしたちは京本に「それでよかったの?」と訊くことはできない。「藤野ちゃんに出会って一緒に漫画を描くことができたから、『もっと絵がうまくなる』という夢なかばで死んでもよかった?」と。なぜなら彼女は死んだから。うーん。

「出会ってよかった」を「出会ってよかった」というテイで、「出会わなければよかった」を「出会わなければよかった」というテイで描くならわかる。でもこれは「『わたしたち出会ってよかったよね』というテイで描かれた『わたしたち出会わなければよかったね』という話」に見えて、どうしても違和感があるんだよ。よくわかんないなと思ってしまう。描き方と描かれているものの間に食い違いがあるような気がする。どう受け取ればいいんだろう。

@whitesummer
牡蠣の子は牡蠣のベッドに眠る さあ窓に目張りをしてぼくたちも