じんわりとした真っ黒い文字の波が押し寄せてきては、そこに立っている僕をズタズタに傷つけて去っていく。
ここじゃないどこかに行きたい。
ここじゃない、遥か遠くの地に行きたい。
大丈夫。行き方もわかる。足も動かせる。目も見える。
それなのに心が動かないのは、ここが自分のテリトリーだって知っているから。
幾度となく押し寄せる文字の波に傷つけられて、泣き叫ぶこともなくただ血を流す。
流した血すら黒く染まる。
そんな世界が本来の僕の生きる場所で、それ以外は無理をして立っているだけなのだ。
大丈夫、生き方は知ってる。
けれど心と体は反比例していく。
仕方なく波の外に出ては傷つかない自分を知って、それに涙を流してしまう。
こんなに安全な世界に、僕は必要とされていないんだ。
心地の良い退廃と自己破壊の繰り返しが僕を作り僕の存在意義となっている。
忘れよう、行き方を。
目の前から津波のようにやってくる黒い波が見える。
僕は深呼吸をすると、瞼を閉じた。
あの波にもまれ壊れるのが本望だ。