酷く死にたくなる夜がある。
例えば今日のように、底冷えする日。
足先の感覚はとうに無くなって、
自分がどこに立っているのかも分からない。
昨年の11月から壊れたままのエアコンを見上げながら、
悴んだ指をどうにかするべく、レンジから取り出したばかりの
マグカップを握りしめた。白い湖面。
どこか甘く、コクのある香り。好き嫌いが分かれるらしい。
蜂蜜なんて高いものはこの家に無いので、代わりに粉砂糖をいれた。
酷く死にたくなる夜は、しばらく続く。
定期的にやってくるそれには、慣れているつもりだ。
慣れてはいても、次々とよみがえる嫌な記憶や言葉、
人間関係の煩わしさ、嫉妬、焦燥感。
それら全てに叫びだしたくなる気持ちを抑えながら
大粒の涙を諾々と流す時間は、酷くむなしくて、無意味で、辛い。
そんな夜を越えたあとは、体が鉛のように動かなくなる。
疲れきって食事を摂ることすら億劫になる日。
ましてやエアコンが壊れているからと、
部屋の管理会社に電話をする気力なんてあるはずがないのだ。
カーテンの隙間から差し込む忌々しい陽の光。サイドテーブルの上。
眼鏡を曇らせた湯気の跡形もなく、空のマグカップが影を落としていた。