自分が家族を元通りにしなければならない。
周囲の人間の影響か、責任感の強さがそうさせたのか
10年以上もの間、できる限りのことをしてきた。
母親ほどではなくとも、
「心を、時間を、人生を削ってきた」という表現は
けして過ぎたものではないと思っている。
それに疲れきって家を出たにも関わらず、帰省すると
また息を吸うように自分を削る行為をしてしまう。
自分がなんとかしなければ。自分がしっかりしなければ。
自分がみんなを楽しませたら、この家にも笑顔が戻ってくるはず。
自分はこんなにも頑張ってる。だから大丈夫。
こんなにも頑張ってるのだから、きっと全て元通りになるはず。
まるで使い古された消しゴムのようだった。
いや、消しカスは丸めれば再利用できるから、
消しゴムの方がまだ良かったかもしれない。
「家族の問題は家族のものなんです。その場所に居る人達が
解決しなくちゃならない。そうでないと解決しないんです。」
医師が言った。
家族の問題=自分の問題ではない、ということだと理解した。
そうか、もう頑張らなくていいのか。そんな解放感は少しだけで。
「なら今まで費やしてきた時間はなんだったんだ」
「なんて無駄なことをしていたんだ」
「これまでの時間は?心は?人生は?」
深い後悔と絶望に似た気持ちが押し寄せる。
些細な「頑張り」など、無意味だったのだ。
家族はもう元に戻らない、そう言われているような気分になった。
でもそんなこと、とうの昔に分かっていた。
家族は既に諦めている。それでも1人諦めきれずに走っていたのだ。
走ることなど、もう出来ないのに。