この文章の背景と目的
組織内で何らかのルールなどを決定する際に、その根拠となる指針が示されないまま適用されるケースを見受けました。このようなルールは一貫性に欠けて運用する意味がなくなるだけでなく、ルールの持つ強制力によって非効率な行動を生み出す可能性があります。
この文書ではポリシー・ルール・ガイドラインの内容と関係性を提示することで、それらが効率的に意味を持って運用されることを支援します。
ポリシー・ルール・ガイドラインの関係
人が何らかの行動を起こす際に、一連の事象として意思決定・行動・結果が発生します。ポリシーやルールは意思決定や行動を制約する規定であり、その結果に一貫性をもたせるために運用されます。
複数人の組織で作業を行う際にポリシーやルールが存在しないと、人によって行動やその結果の方向性や品質がバラバラになってしまいます。これらを規定することで行動に一貫性を与えることができます。また、一人で作業を行う際でも、ポリシーやルールを定めることによって過去・現在・未来での行動の一貫性を担保することができます。
ポリシー・ルール・ガイドラインの関係とそれらが人の行動に与える影響を以下の図に示します。

ルールは行動を制約する具体的な規範であり、ポリシーは価値、信念、目標よって導かれる行動の指針です。ルールは行動と結果に影響するのに対して、ポリシーは行動を行う前の意思決定に影響を与えます。
また、ガイドラインはルールと混同されがちですが、ルールが行動を強制して結果を保証するのに対して、ガイドラインは行動を支援するために利用されます。
これらは運用する組織の合意があって初めて成立し、その運用をもって初めて効力を発揮します。策定されたポリシーやルールは必ず組織内で合意を取るようにしてください。
ポリシーとルールのライフサイクル
ポリシーやルールは策定されてから廃止されるまでに以下のライフサイクルを辿ります。

1. 策定
ポリシーやルールはその運用に先立って策定を行う必要があります。次章の項目を参考に策定を行いましょう。
合意が行われていないポリシーやルールをドラフトと呼びます。ドラフトの策定は、記載の一貫性を担保するために、短時間に少人数で行うことが好ましいです。
2. 合意
ルールもポリシーもそれらを運用する組織の合意があって初めて成立します。組織内で策定されたものを精査し、不明点の解消や運用可能性を議論しましょう。
3. 運用
策定・合意されたポリシーやルールは運用されて初めて効力を発揮します。定期的なタイミングや行動にフックしてこれらを確認し、適切に運用しましょう。
4. 検査
運用を続けるうちに、はじめに策定されたポリシーやルールだけではカバーできない領域が出てくることがあります。
また、背景や目的に書かれた状況が変化することで、ポリシーやルールが現状に則さなくなることがあります。これらを定期的に検査することで現状に則していないものを発見し追記・更新・廃止を行うことができます。
5. 追記・更新
現状に則さなくなったポリシーやルールを追記・更新します。
追記することでそれらがカバーする範囲を増やすことができます。変更することでより組織や現状にそぐわないものをより最適化することができます。ポリシーやルールの追記・更新を行う際には、その目的と影響範囲を確認するようにしましょう。
追記・更新されたルールがその目的や影響範囲に則さない場合は、それらの自体の枠組みとは別の枠組みで規定するほうが好ましいです。
例)ソースコードの妥当性を検査することを目的としたコードレビューのルールに仕様を満たしているかの検査ルールを追加する場合、コード検査のためのレビュールールと仕様検査のためのレビュールールを分けたほうが良い可能性があります。この場合ではルール自体を分けても良いですし章を分けても構いません。
6. 廃止
運営してみた結果組織になじまなかったり、現状の変化によって背景や目的が失われたポリシーやルールは廃止します。
特にルールは追記を繰り返すことで分量が増えていきます。ルールが増えすぎたと感じた際には不要なルールを廃止するようにしましょう。
ポリシー
目的
ポリシーは価値、信念、目標を提示することで行動や意思決定に指針あたえます。ルールなどと異なりより広範囲のトピックをカバーするために用いられます。ポリシーはより上位の組織のポリシーなどによって規定されることがあります。
内容
すべての文書に言えることですが、ポリシーの影響範囲を定めてタイトルや目的を記載します。目的にそぐわない内容を記載する場合は別の文書に記載するのが良いでしょう。
ポリシーは価値、信念、目標を提示する必要があります。組織が何をなすためにどのようなものを大切にするかを言語化し、後続のルールやガイドライン、個人の行動の根拠となる文書を記述しましょう。
テンプレート
ポリシーに決まった書き方はありません。例えばデザインドックのような文書を記述する場合はデザインドックのテンプレートに従ってください。
ここでは一例として単独の文書としてポリシーを記述する際のテンプレートを提示します。
タイトル
ポリシーの目的や適用される影響範囲を端的に示すタイトルを記載します
背景
ポリシーを書くに至った経緯を記載します
目的
ポリシーの運用目的や適用される影響範囲を記載します
ポリシー
ポリシーの内容となる価値、信念、目標を記載します
適用される影響範囲が複数ある場合は章を分けて記載します
ルール
目的
ルールは具体的な規範を提示することで行動を制約します。ルールを定めることによって行動と結果に一貫性をもたせることができます。
内容
ルールは強制力を持って行動を成約し結果の一貫性を担保するためのものです。強制力を伴うため基本的には「するべきこと」「してはならないこと」を記載します。「したほうがよいこと」「しないほうがよいこと」を記載する場合はガイドラインと統合したルールを記載すると良いでしょう。
ルールはそれを実施する根拠が必要です。根拠がないルールは無秩序で矛盾が生じるリスクがあり結果の一貫性を担保できなくなる可能性があります。ルールの根拠として前章のポリシーを利用することを推奨します。
テンプレート
ここでは一例として単独の文書としてルールを記述する際のテンプレートを提示します。
タイトル
ルールの目的や適用される影響範囲を端的に示すタイトルを記載します
背景
ルールを書くに至った経緯を記載します
目的
ルールの運用目的や適用される影響範囲を記載します
ルール
ルールを構成する項目を記載します
するべきこと/してはならないこと
項目をする根拠
項目が適用されなかった場合のリスク
適用される影響範囲が複数ある場合は章を分けて記載します
例外規定
ルールが適用されないケースやルールを適用できない場合の対処方法を記載します
ルールが適用されなかった場合に起こりうるリスクを記載します
ガイドライン
目的
ガイドラインは具体的な手順を提示することで行動を支援します。ガイドラインを定めることによって行動に一定の方法や一貫性をもたせることができます。
内容
ガイドラインは行動を支援するための手順を提示するためのものです。なんらかの取り組みなどを実施する際にその行動の手順や「したほうがよいこと」「しないほうがよいこと」を記載します。「するべきこと」「してはならないこと」を記載する場合はルールとガイドラインが混同していることを明記することをおすすめします。
ガイドラインは特に、ある取り組みを初めて実施する人に対して強い効力を発揮します。
テンプレート
ここでは一例として単独の文書としてガイドラインを記述する際のテンプレートを提示します。
タイトル
ガイドラインの目的や適用される影響範囲を端的に示すタイトルを記載します
背景
ガイドラインを書くに至った経緯を記載します
目的
ガイドラインの運用目的や適用される影響範囲を記載します
ガイドライン
ガイドラインを構成する項目を記載します
具体的な行動の手順
したほうがよい/しないほうがよいこと
項目をする根拠
適用される影響範囲が複数ある場合は章を分けて記載します