短編小説 - カツ丼弁当

workoocha
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終電を逃してしまった夜、仕方なく長距離のタクシーに乗った。静かな夜道を走る車内で、ふと、お腹の空きを感じた。その時、運転手が「ちょっといいですか?コンビニに寄って、何か買ってもいいですか?メーターは少しおまけしますよ」と提案してきた。困惑しつつも承諾すると、間もなくコンビニに到着した。

運転手は車を停め、私もついでにとコンビニでカツ丼弁当を手に取った。戻ると、運転手が目を輝かせ「美味しそうな弁当ですね。少し見せてくれませんか?」と言った。少し戸惑いながらも、弁当を彼に渡した。彼は蓋をゆっくりと開け、「旨そうだー」と言いながら、箸を割り始めた。私が「あのー」と口を開く間もなく、運転手は早速一口食べ始めた。

呆気に取られながらも、その光景があまりにも予想外で、思わず笑いがこみ上げてきた。運転手は満足げに「これはいい!お返しにメーターは今夜、無料にしましょう」と宣言した。

その夜、終電を逃した不便さはあったが、予期せぬ出来事が一つの小さな冒険となり、タクシー運転手とのユニークな交流を楽しむことができた。私は、カツ丼一つでタクシー代を節約したことよりも、この不思議な出会いに心から感謝していた。

そして、その夜以来、「カツ丼弁当」と聞く度に、その運転手の顔と美味しそうに食べる姿が浮かび、ほっこりとした気持ちになるのだった。

@workoocha
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