仕事帰りに途中下車した。お目当てはおかしのまちおかだ。去年まで働いていた新宿には、西口方面におかしのまちおかがあった。すこし気晴らししたいときはそこに立ち寄って、頭のなかで計算をしながらお菓子をかごに放り、1000円分のお菓子を買うのが好きだった。所謂「おかしのまちおか1000円チャレンジ」(by東京ポッド許可局)である。
去年の秋に転職してからは新宿を離れたため、おかしのまちおか圏から離れた生活になってしまったことに肩を落としていた。しかし調べると、家の最寄り駅の二駅隣りにまちおかがあったのだ。わたしは幸いにも、元からまちおか圏に住んでいたのだ。そこは降りたことのない駅だった。
駅の改札を出て出口の方を向くと、すぐそこにまちおかがあった。商店街の入口をにぎわすように店先にお菓子が積まれている。お菓子に目を泳がせる。まず塩バタかまんはマスト。ふわっとの枝豆味は初見だ。こちらもチョイス。中に入り、レモンチーズケーキ味のダース、ぬれ煎餅(大好き)、ちぃかわパッケージのすき焼き味のドデカイラーメンなどを見繕った。854円でエコバッグがふくふくになった。
そのまま商店街へとふらっと足を向けてみた。すると、そこだけが神保町と繋がっているような古書店があった。店先の棚を眺めると、以前から気になっていた本が200円で売られていた。
その一冊を手に取ったことでスイッチが入り、ビニールの暖簾を潜って店内へ入る。天井近くまで高い本棚に「古書」がみっちり詰まっていた。文庫本の多くはカバーはなく、外も中も日に焼けて古木の木肌色をしており、ラフな書き込みがあった。科学、宗教、歴史、生物、植物、海洋、エッセイ、詩......あらゆる分野で、その世界に心身を浸し、魅入られて生きてきた人たちが存在してきたこと。わたしの人生がいかにちっぽけで、世界にはわたしの知らない神秘が満ちている事実を、しかと感じ入らせてくれる本棚だった。
普段なら「これを“古本”で買ったよ!」などとSNSやブログに書き込むのは憚られるけど、ここはわりかしクローズな空間だと思うので書いちゃうことにする。
植本一子さんは、まさにこの日にインスタをフォローしはじめたので巡り合せを感じざるを得なかった。
締めて2200円。破格...!!ちなみに今欲しい新刊本(ハードカバーの翻訳書)は2640円だ。
レジのそばにはピチッとビニール包装された古書が詰まった棚があった。5ケタの額の本ばかりだ。RPGに出てくる大魔法使いの魔導書のような趣きの、昭和5年発刊のブラウニングの詩集があった。戦禍をくぐり抜け人の手を渡り、この街の一角の本棚に辿り着き、今わたしがおもむろに手に取っていることが物凄い奇跡に思えてならない。その詩集は棚に戻した。迎えるにはまだまだ勇気が要る本だ。
会計を済ませると、本が重いからと店員さんがビニール袋を二重にし、持ちやすいように持ち手をくしゃりと丸め、微笑んで渡してくれた。