2024/04/25

wowki
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兄がスタッフとして参戦している映画を観に行った。この日に限っては映画鑑賞はサブクエストみたいなもので、メインクエストはエンドロールから兄の名前を見つけ出すことである。

公開初日に鑑賞した父からは 「エンドロールの上昇スピードが動体視力を超えた。(動き始めた新幹線から駅名を読む感じ。)」とLINEがあった。文面通り受け取ってしまった私は猛スピードで画面下を左から右へ走り抜けていくバラエティ番組のスタッフロールを想像していた。

映画の本編が終わり、主題歌が流れる。さぁここからよ...と暗転したスクリーンを前に気を引き締める。主演俳優の名前が下から流れてきた。映画のエンドロールって通常こんなもんじゃない?みたいな、法定速度を守るようなスピードで文字が流れてゆく。父の動体視力の限界値がハッとわかってしまいわずかに切なくなる。「もしかしなくても老い...」と心の奥でつぶやいてしまった。

とはいえノーヒントでこの名前の羅列から息子を見つけ出した父はすごい。これは至難の業だ。兄の名前のおおよその位置を、父からのLINEで知らされていたので容易に見つけることができた。クエスト達成である。原作は全くチェックしていなかったが映画本編もとても楽しめた。幻想的で優美な美術と装束が素敵だった。どのシーンにも絵力があった。そして兄の仕事も目に焼き付けた。兄が昔から得意としている表現と技術が活かされた仕事だった。

昔はこうした名前の残る仕事に憧れた。堂々と周りへ「私の仕事です!」と胸を張ってお披露目できるような。でも名前も顔も公開されない地味で地道な仕事によって人々の生活も人生も支えられ社会が今日も回っていることが身に沁みるようになってからは、目立たない仕事もそれに携わる人の暮らしのことも、とても尊く思えている。私は私の地味な仕事をがんばろうと、兄の名前を追いながら思った。

@wowki
おもに生活記録ときどき回顧録です。1988年福島県生まれ 東京暮らし。