確信犯の天丼屋

きぬごし
·

帰り道で天丼屋に寄った。

ずっと気になってたところ、というのではなく、いつもと違う道を通ったら目について、入ってみるか、となった。

暗めの店内で、3組くらいお客さんが静かに天丼を食べていて、チェーンと高級店の間の層を狙っている雰囲気だった。

カウンターに座って大将に天丼を頼んで待っていると、少しして、見習いっぽい人がこそこそと大将らしき人に耳打ちをしていた。

その時は特に気にならなかったのだが、やがて、天丼です、と見習いが丼を運んできた。

するとなぜか、

「…すみません」

と大将がぼそっと呟いた。

なんだなんだ、と思いながら蓋を開けると、想像してた天丼とちょっと違った。

それでもやっぱり初めてのお店だったので、こんなもんなのかなと思って深く気にせず食べていると、大将がさりげなくテーブルに置かれていた伝票を回収して、書き直して、また戻した。

さすがに不審に思ってメニューと見比べてみたら、目の前にあるのは頼んだのと違う丼だった。

しかも注文したのより200円高い。

あ、これ、見習いが間違えて違うの作っちゃったやつだ。

しかもそれをそのまま押し通しやがった。

大将と見習いのこれまでの行動が腑に落ちて、笑ってしまった。

しかしその時点でまあまあ食べてしまっていて、正しいのを作り直されても食べられる気がしなかったので、黙ってそのまま食べた。

幸か不幸かそんなに好きな味ではなかったというのもある。

帰りの電車で、新しいグーグルアカウントを取った。

グーグルマップに酷評のレビューを書かねばと思ったのだ。

持てる語彙を全て使って最大限慇懃無礼な文面で書いてやろうとコメントを考えながら家まで歩いた。

そうしたら、家に着く頃にはどっと疲れてばかばかしくなっていた。

それでグーグルマップにレビューを書く代わりに、やるか悩んでたしずかなインターネットのアカウントを取った。

胸を張って言えるようなものじゃないけれど、これがしずかなインターネットを始めるのを決めたきっかけである。

ちなみに新しく取ったグーグルアカウントはすぐ消した。

@wry156
食べ物、お酒、山、夢の日記