ある時代にはとりあえず走り出すことで大抵なんとかなってた気がするんだけどね。
汚いけど妙に旨いせいでぎゅうぎゅう詰めのジンギスカン屋の一角、宙を漂う煙を見つめてあの人が言った。僕はそういうもんですか、とかなんとか言いながら、なんとなく音楽室の壁のショパンとかハイドンとかドビュッシーとか、それから窓際に置かれたグランドピアノの蓋にいつもほこりが溜まっていて、それがカーテンから漏れた朝日だか夕日だかのせいでやけにきらきらしていた事とかを思い出してた。
大人になるのに必要そうなものはちゃんと全てしまっておいたつもりなんだけれども、隙間から漏れた光に、いつのまにか溶けてしまったみたいだ。
了