好きなものの話① 短歌

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 私は想像することが好きで、だから友達とか少ないんですけど、それにまつわる趣味はたくさんあります。

 小説書いたりさ、あるいはひとつの文章を、ひとつの歌を、曲を深く読み込んだり聞き込んだり。

 コンテンツと真摯に向き合うのは、イコールで私が孤独になることと繋がっていて、わかりやすくいえば読書をしている最中は本とあなたのふたりきり。とても価値のある孤独な時間。まだ眠りたくない深夜のひとときみたいな、映画を見終えたあとに息をつくまでの数瞬みたいな。

 想像は手元に向き合うものがなくても、頭の中でそれが完結できるからお手軽なの。だから好き。

 それで、今の流行りは短歌。

 

 もちろんいくら考えたって答えには辿り着けない。だって作者は解説してないし、作品に意図を込めたんだからそこからわかってよ、って話だもんね。

 なので、この想像の行き着くところは自己満足。ね、わかりやすいでしょ。ゴールは自分が決めていい。気軽なんです。

 そんなこんなでここ2年くらいはめちゃくちゃな量の歌集を、あるいは全集を読んでいます。自分でも詠むことはあるけど、やっぱり読む方が多い。読んで考える方が楽しいから、今は。

 

 お気に入りの短歌と、私なりの読みを紹介するね。

 空へ扉は全て開かれ駆け抜ける風ありこれは白亜紀の風

 佐藤モニカ『白亜紀の風』より。沖縄出身の歌人さんらしい。この短歌すごくないですか? 出てくるものを順々に想像するだけで、雄大な自然がありありと目に浮かぶの。

 空がまず出てきて、その後一度地上に戻る。沖縄民家の扉は開け放たれているんでしょう、暑いから。で、そこを駆け抜ける。なにが? 風が。どこへ? 空へ!

 そして、その風は白亜紀から悠々と吹き続けてきた雄大な自然なわけです。すげ~~~~~~自然ってでっけ~~~~~~~~!!!! って。

 「古池や蛙飛びこむ水の音」は描写がだんだんクローズアップしていく(古池→池にいる蛙→蛙が飛び込む水→水の音)のがすごいんだというなら、この歌も同じように、あるいはそれ以上にすごいと思います。すごい!

 

 いつだって言いたいことの半分も言えないけれど 大きいね、月

 原田彩加『黄色いボート』より。夏目漱石がI love youを月が綺麗ですねと訳した逸話は有名ですが、じゃあ自分ならどう訳そうか考えたことはありますか。この短歌もそんなもののうちのひとつなんじゃないかと思います。

 短歌の前半からわかるのは、日常的に会話している間柄であること、それからなにかを伝えるのに躊躇することがあること。それから続いて、そんな関係なのに月を見るような間柄であること。

 「大きいね、月」というのは、いつも見ている月よりも大きくない? というニュアンスだろうから、きっと多くの夜も共にしているんだろうなとか。そんなに気兼ねない関係なのに「大きいね、月」なんだ。天気と同じくらいつまらない話題。

 でもこれはきっと祈りで、冒頭の夏目漱石に引っ掛けて、わざわざ月の話題を選んだのかもしれない。

 だって、「言いたいことの半分も言えない」、「けれど 大きいね、月」なのだ。つまり「大きいね、月」は言えなかったこと側の意味が込められているに違いない。そしてそれはきっと、I love youだ。

 

 

 

 もっともっともーーーっと書きたいんだけど、短歌について書く度に昂ぶる感情を処理する必要があり、アウトプットに想像以上の時間がかかってしまうのでここまでにします。でもオススメ歌集くらいは書いておこうかな。

 

 太陽の横、白亜紀の風、黄色いボート、透明な砂金、まばたきで消えていく、鬼と踊る、静かな会話、ねむってよいか、かたすみさがし、忘れずあらむ。

@xa
副作用は夢を見ること