毎年12月にキャンプしていた。
なぜ年一回なのかといえば、単にわたしの気力と体力の問題だ。
利用していた滝ノ沢キャンプ場は家から35km。 自転車にキャンプ道具を積載し約5時間。
2021年12月、どうしても時間が削られてしまうため、1泊ではゆっくりできないと考え、その年は2泊してみた。しかし、どうしても食材の買い出しでキャンプ中に1度下山し、また坂を攻める必要があった。 結果、キャンプから帰還後は気力も体力も枯れ果て、例年のように「もうキャンプはコリゴリだよ」と愚痴る。
しかし、半年も経つとまた「キャンプ行きてえなあ」などと考える毎年のルーティーン。
2022年、自転車を変えた。 長年欲しかった「ランドナー」というタイプの自転車だ。
これまで使っていたクロスバイクも良き相棒だったが、より長距離走に向いたドロップハンドルと、重い荷物を積載した走行に向いた強くしなやかなクロームモリブデンの車体、そして坂道に強いギア比と、故障してもすぐに交換可能な汎用性の高いパーツで構成された、名前の由来通りの「旅する」自転車である。
新しい相棒と共に迎えた2022年12月。 相棒は荷物や道からの負担を受け流し、わたしから奪われる体力を最小限に抑えてくれた。 その年も2泊したが、キャンプ飯にこだわる必要がない事に気が付き、2日目は下山し温泉に浸かり、そこの食堂で飯を食べ体力を回復し、またキャンプ場に戻りインスタント麺でビールを飲み夜を過ごした。 遂に、わたしは勝ったぞ(何に?)と高笑いしていたのも束の間。 その日の夜は鬼のように冷え、わたしが数年前に買った安物の寝袋では寒さを防ぎきれず、寝付けない夜を過ごした。 結局、帰還後に体調を崩し「もうキャンプはコリゴリだよ」と唸っていた。
2023年。 寝袋を変えた。日本企業によるマジでダウンのマジで氷点下に耐えるガチの寝袋だ。 それなりのテントが1つ買えるくらいの値段だったが、寝袋の重要性を去年のわたしは痛感している。 早く12月になあれ、と子供のようにワクワクしていた9月。 地図アプリを見ていたら、我が家から自転車で30分弱の場所に「キャンプ場」の文字を発見。 え、うそやんとか思いながら、そのキャンプ場を調べたところ、数年前に農家のおじさんが趣味で土地の一部を開墾し手作り感満載のキャンプ場を作ったらしい。 ここなら、体力の心配は皆無だ。
早速、試しに利用したところ、思った以上にキャンプ場だった。 普通に通勤利用される沿線駅からも歩いて5分くらいなのに、なんならコンビニまで3分くらいで行けるのに、めっちゃ森の中。 なにこれ、なんの魔法なん? クソ穴場やん! と大興奮で、それからほぼ月一で利用している。
2023年11月某日。
わたしはテントの中でコーヒーを飲んでいる。
昨晩、雨が降ったようだ。
どんなにキャンプしても、どんな道具をそろえてみても、なぜかキャンプ中は虚しくなるこの現象は何なんだろう? 独り暗闇の中で酒を飲んでいると、家の中で家族とテレビを見ながら食べる夕飯を想う。
「山を思えば人恋し、人を思えば山恋し」と昔の誰かも言ってたらしい。
テントについた水滴が笑っていた。