秋田から鹿児島は1500kmも離れていたから、出発は前日の夕方になった。秋田空港から伊丹空港へ、日が暮れてからのフライト。3月28日。兵庫は雨が降っていた。伊丹空港からバスで三宮、ポートライナーに乗ってホテルのある人工島に降りる。路線図には「計算科学センター」という駅があった。スーパーコンピューター「京」の後継、2021年に運用され始めた「富岳」はこの島にあるらしい。
3月29日。朝の神戸空港は思いのほか混んでいる。第一便で鹿児島へと向かう。天気は良い。鹿児島上空、機内からはシンボルの桜島がよく見えた。9時過ぎには降り立つ。近くで車をレンタルし、北上する。
この日の目的は霧島山の最高峰、韓国岳だった。読み方はそれぞれ、きりしまやま、からくにだけ。10時を回った頃に登山口のある、えびの高原へ着く。えびの高原は鹿児島と宮崎をまたいで拡がり、そこは宮崎だった。
11時前に登り始める。登山口は1191m、山頂は1700mなので、標高差は500m程度。そう険しい道のりではない。むしろ百名山に含まれる九州の他の山に比べるとかなり登りやすいだろう。空はよく晴れ、風も穏やかだった。
道中はたくさんの登山客と出会う。外国からの、特にドイツからの観光客が多い。話を聞くと、長期休暇を利用して1ヶ月ほど日本へ滞在する予定らしい。東京、京都、大阪、そして鹿児島。
これといった危険もなく、2時間ほどで山頂へ至る。南側を向くと青い水を抱えた大浪池(おおなみのいけ)が、奥には桜島が見える。火山地帯らしい地形も見える。鹿児島空港は霧島山に近い。空には幾筋かの飛行機雲が走っていた。
帰りは大浪池方面を通って下山する。数百mの登り返しを厭ったため、直接湖を見ることはなかった。こちら側のルートは急な斜面が多く、登りには向かないと感じる。山の標高記録を見ると登りルートとの違いがよくわかる(下写真右上のグラフ参照。左端が視点、右端が終点を示す)。急斜面では下山時の事故も多いため、楽がしたい人は先の登りルートを往復するのがよいだろう。韓国岳は地元の住民もよく訪れる、親しみ深い山と聞く。たしかに道は丁寧に整備され、迷う心配もそうない。天望も開けた良い山だった。鹿児島市内へと宿を取り、焼酎で酔い潰れる。
3月30日。昨日は鹿児島の北端へ向かったが、この日は南へ向かう。目的地は開聞岳(かいもんだけ)。蟹の爪をぶら下げたような形をした鹿児島の、左側、西側の先端にくっついている山だ。韓国岳と同様に百名山に選ばれ、また2座しかない標高1000m以下の百名山の一方として知られる。開聞岳の標高は924m。もう一方は筑波山(877m)。
9時半には登りはじめ、12時に山頂へ至る。標高が韓国岳の登山口より低い開聞岳だが、海に面していることもあり、スタート地点からの標高差は800mもある。韓国岳は500m程度だったのに比べ、時間はかかる。しかし道が急ではないので、厳しい山行ではない。ただしこれからの季節は、次第に熱さが辛くなっていくだろう。既にその予兆を感じさせる陽気だった。
標柱の奥に見えるのは池田湖。カルデラ湖で、九州最大の湖でもある。南側はよく凪いだ海で、ほんのわずかに屋久島が見えた。天気が良ければよりくっきり、種子島なども見えるという。晴れた日であり、春霞の日でもあった。
麓ではサクラやツツジが盛りを迎えていたが、山の中でもいくつか可愛らしい草花を見ることができた。順にクサイチゴ、フモトスミレ、ツクシショウジョウバカマだろうか。スミレはヒメミヤマスミレという子かもしれない。見分けがつかない。東北で見るショウジョウバカマは赤い花を咲かせるため、白いものは新鮮だ。
登り同じルートを通って下山する。とても満足のいく山行だった。開聞岳は私がぜひ行きたい山のひとつだった。というのも、開聞岳は面白い形をした山だからだ。下の地図を見ればすぐに理解されるように、こんな幼児の描く山そのものの形をした山はそうない。見るだけで口元が綻ぶ山である。地元では薩摩富士と呼ばれ親しまれているようだ。鹿児島市内で前日と同じ宿に泊まり、飲み歩く。
3月31日。鹿児島から大阪へ。
4月1日。大阪から秋田へ。
2座しか登らない旅だったが、これで九州本土の5つの百名山は踏破したことになる。残りは屋久島の宮之浦岳だけである。生きている間に行きたいね。
(了)