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あなたへのボイスメッセージを撮り終わってから、なんだか急に寂しくなった。「約束を破られるのは苦手」などと言っておきながら、舌の根も乾かぬうちにあなたとの約束を破ってしまったのは此方側だというのに。本当にごめんなさい。図々しくも寂しいなと思いながらカワウソを抱いて、あなたの写真を見返してみるけれど依然寂しいままだった。どうにかしてあなたの声が聞きたいと思ったが、それを叶える手段は思い付く限りひとつしかなくて。
きみに叱られてしまうかなと思いながらもイヤホンを付け、ボイスメモを開く。問読みの音声や歌の練習などのファイルに紛れた「新規録音87」を少しどきどきした気持ちで再生した。寂しいときに聞きますねと言ったらあなたは「用途がおかしい」と笑っていたけど、やっぱりこの音声を再生するのは今日みたいな寂しいときだった。少しでもあなたの声を聞けたら、安心して眠れるかなと思って。
午前4時前。ちょっぴり寝不足の脳内に響いたのはあなたの吐息だった。浅い呼吸に混じったあなたの少し苦しそうな声が聞こえて、お腹の辺りがきゅうと痛む。たぶんこれは少しの緊張と、罪悪感と嗜虐心。なんだか悪いことをしているみたいな気分になって、布団を頭まで被った。ASMRをこっそり聞いてる人達ってこんな気分なのかも。最近こういうの聞いてるんだよねと肌色強めのパッケージを見せてきた同期に軽蔑の目を向けてたくせ、今度はわたしがそちら側になっている。
自分の心臓の音まで聞こえてくるみたいだった。あなたの声を聞けたらと軽い気持ちで再生したものの、あの日のことを思い出して胸がいやに音を立てている。「好きな人のことを考えてお腹がきゅーってなる」みたいな文学表現は見たことがあるけれど、まさに今がそれで、あなたの声を聞いてお腹がちょっぴり締め付けられるみたいに痛い。これってフィクションじゃなかったんだ、とか、どんだけあなたのことが好きなんだ、とか。あなたの声が好きすぎる。「体触られてるときの僕の気持ちにもなってくださいよ」←あの、ここ好きです。YouTubeだったらタイムスタンプを押しているところ。余裕がなさそうな関西弁混じりのイントネーション、かわいい。おねだりするときに少し言葉がつっかえるところとか、余裕を取り戻した束の間に上擦った声を上げるところとか。普段はちょっと失礼で不遜な憎めない後輩が、鼻から抜けるような弱々しい声をわたしの前でだけ出している事実があまりにもいとおしい。ああ駄目かも、今日の日記は本当におしまいになっている。友人が「おまえの語彙はpixivすぎる」と言っていたのを思い出しました。否定できないよ、こんなの。
10分を超えたあたりで流石に駄目になって、再生を停止した。なんで「好きな人の声聞きたいな」ぐらいの気持ちで聞き始めちゃったんだろう。まだ心臓がどくどく言っている。顔に熱が集まっているのが自分でもわかる。イヤホンを勢い任せにちぎりとって、己の焦りを宥めるように爆音でニコニコ動画のボカロ100選を流し始めた。もう朝4時とか関係ない!
あなたもこの音声を聞くときが来るのかなとか、もしかしたらもう聞いてるのかなとか、そんなことを考えてそわそわする。日記を見返すタイプではないと言っていたから録音を聞き返すこともないのだろうと勝手に思っているけれど、どうなんですか? でもおかずがどうとかって話してたよな、男の人が言うああいう言葉ってどこから本気でどこまで冗談なんですかね、普通に全部冗談とかだったら馬鹿正直にこんなこと考えてるの恥ずかしすぎる。男の人のことはまったくわからないから、考えても分からない。ASMR聞いてる同期の発言も冗談だと思ってたけど、本気なんだろうか、だとしたら軽蔑の目を向けたの不味かったかな。早朝に纏まらないことをぐるぐる考えている。こんなことも分からないくらいには私は男の人に慣れていないですよ、あなたの目にどう映っているのかは知りませんが。あなたが「分からない」という文脈とは別のところで、わたしは男の人のことがわからない。色々教えてくれると助かります。ところで今日の日記キモすぎるので、お蔵入りで良いですかね?