一方的に愛を語らせてよ

xx_7
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明日からあなたと会えない。長い間抱き締めあって充足したはずだったのに、別れ際になって唐突に帰したくなくなった。「コンビニ行くから」と半ば自分に言い聞かせるような言い訳をしながら、あなたの隣を歩く。明らかにこちら側に傾いている傘がいとおしく、申し訳なく。

昨日あんな話をしてしまったからだろうか、あなたはいつも以上に優しかった。でも私から要望を言わなければ叶わないのがそれはそれで恥ずかしくて。あなたの顔が首元にうずめられるとき、柔らかいものが這わせられるとき、いつも腰と足がぞくぞくと震えてしまう。世間体と社会性に苛まれながら、たくさん跡を付けてほしいだなんて浮かれたことを思った。

録音されていると分かっていては素直に声も出せず、今度は舌を噛む癖がつきました。唇を噛むよりはずっといいけれど、やりすぎるとちょっと痛い。あなたが「我慢しないで」と言えば言うほど意固地になってしまう、もう少し素直な方がかわいいのだろうとは分かっているのに。あなたが肌を触られているとき、素直に声を漏らしてくれるのがどれだけ可愛いか。あなたの少し低い甘い声も縋るようなお願いも、この世で私だけがひとり占めしていることが嬉しくてたまらないのだ。

あなたの残り香がする。今まで感じたことはなかったのだけれど、たくさん匂いを嗅いだからか、それとも純粋に寂しいからか。やわらかな髪の毛に鼻を寄せていたときの匂いが、わたしの鼻腔にまだ残っている。明日以降もまだ残っていたらいいのに。そんな馬鹿なことを考えながら、シャワーを浴びるのを少し惜しく思っている。

4/30

首元に残る貴方からの愛情が他の人にバレないか不安で、ずっと挙動不審だった。コンシーラーで念入りに隠そうとするも、顔に塗るためのものを首元にあてがうと色がちょっと浮いて見える。結局気温にそぐわないタートルネックを着てみるが、それでも垣間見えるような位置に付けたあなたを愛おしいながらも恨めしく思った。ここまで必死に隠してバレたらもう言い逃れできないし、今日は下を向いて歩こうと思いながら諦めて外へ出た。もうすぐ4限が始まってしまう。

「美術館って、彼氏と?」4限終わり、友人からそんなことを聞かれ咄嗟に「違うよ」という言葉が口を滑った。あなたとのLINEを見られたかと思って画面を覆い、顎を引いて首元を隠す。もうあなたの存在はバレているし何も隠す必要などないのだけれど、一度否定したことを撤回するのもおかしくて「違うから」と念押しするように言ってしまう。こんなだから私は惚気なんてできないのだろう。あなたと美術館に行けたこと、そのあとお揃いの指輪やイヤリングを見たこと、芝生の上でお喋りをしたこと、おいしいご飯を食べたこと。人にべらべら喋ってしまいたいほど幸せなことではあるのだけれど、今はまだ自分だけの秘密にしておきたい。わたしだけが知っていればいいもの。

酔っている。こんなに飲むつもりじゃなかった。先輩に日本酒を勧められていい気分になって、あなたと会えない寂しさを紛らわすように酒を煽った。梅田で飲むときは、帰りを考慮して普段は控えめにしてるのに。あなたに会いたい。アルコールでぐらぐらする頭の中で一番明瞭に考えたことといえば、そんな願望だった。もう少し酒の席を長引かせれば、この後2軒目に行けば、もしかしたら。あなたと会うことばっかり考えて、甘えの塊みたいなメッセージを送る。そわそわしながら返事を待っていたら先輩たちに不審がられて、「バイトの連絡が気になるから」と大嘘をついた。あなたから返事が来た途端飛び出すように店を出てしまって、なんだかもう、酔ってたといえ本当に余裕がなかったんだなと思う。

出会い頭に人目も憚らず抱き着いて、あなたの存在を確かめるように顔を擦り付けた。酒臭かったかな。昨日会ったばかりなのに「やっと会えた」みたいな気持ち。正直なところ、この数日で少しは気持ちが落ち着いていくのかなと思った。多少会えなくても平気になったり、返信が遅くても慣れっこになったり。でも初日から耐えられないくらいにはまだきみのことが好きで、この気持ちを抱えたままあと4日過ごさなければならないらしい。

酔いが回っているわたしと比べてきみは随分理性的だった。わたしといえは、考えたことが全部口から零れ落ちていたのに。こんなに好きなのは私だけなのかなと思ったところであなたの「好き」が聞けて、鼓動が早まったのは明確に覚えている。あんなにくっついていたのだから、あなたにバレていても仕方がないかも。好きです、たまらなく好き。これから忙しくなるのは貴方の方で、大変な目に遭うのは絶対にそちら側なんだろうけれど。無理はしないでほしいし、できる限りたくさん寝てほしい。あなたの体調が一番だから。こんな日記が支えになれるとは思っていないけれど、君のことをこんなにも愛おしく想っている人間が隣にいるってことを、覚えておいてほしい。愛しています。