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今日はあなたと一言も言葉を交わせていない。指は煩いぐらい喋ってくれるのに、部室できみの姿を見かけたときから口が縫い合わされたように動かなくなった。数時間後に始まる面接の内容を練りながら、きみと楽しそうに話している後輩たちを少し羨ましく思う。
1時間前なのに殆ど埋まっていないWordに首を傾げていると、「昨日忘れてたイヤホン、親機の横にあるよ」と同期からLINEが来た。顔を上げると、それはちょうどあなたの目の前で。皆の前で隣に行くのが恥ずかしいという思いは、半年片思いしていたときからまったく変わっていない。以前より少しは胸を張っていいはずなのに。
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面接前に、あなたから貰った日記を読み返している。柔らかくて温かみのある文章がわたしの心に溶け込んで、逸る鼓動を落ち着かせてくれた。恋人という立場を差し置いてもあなたの文章が大好きであるから、全国にきみの文才が知れ渡ることをちょっと惜しく思う。あなたが面接に通ったことは誰よりも自分のことのように嬉しく、その気持ちに嘘はない。でも、あなたの書く文はわたし宛てだけのものでいいのにとも思う。
「おれの友人に夢女子付いたんだよね」この間、先輩がそんなことを言っていた。当時は他人事のように笑い飛ばしたんだけれど、当人達が思ってる以上に些細なところからファンが付くことを、わたしは身をもって知っている。あなたの文章がたくさん見れることを嬉しく思うと同時に、少々見当外れな心配をしているわたしのことを、どうか笑ってほしい。
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待ち侘びていたあなたの声が聞こえて、心が弾んだ。言いつけを守ってスピーカーから音を垂れ流しているけれど、少し物足りない。外にいるとき、耳元であなたの声を聞くことができるのはちょっとした贅沢になりつつある。前はあなたが寂しがって甘えたことを言ってくれていたのに、今日はわたしばかり泣き言を漏らしていた。
どうやら、あなたの友人に私の存在が知られてしまったようだ。随分面白い目撃のされ方をしたらしい。世間は狭いから人目を憚らなければなと思いながらも、せっかく貴方と触れ合うことができるのに、人の目を気にしてなんかいられるかとも思う。もっとあなたに触れたいなんて焦れる、私はちょっとだけ傲慢だ。自慢の彼女だなんてまだ胸を張って言えないけれど、こうして徐々に知られていくさまを見ていると、本当にあなたの恋人なのだなとどこか他人事のように実感する。実感して、勝手に幸せになっている。
あなたのことを笑えるほど、実は私にも余裕はない。わたしも明日、恐らくあなたの存在を伝えなければならない人がいるからだ。2ヶ月前、「どちらかに恋人ができた時点で無し」という約束のもとでサシ飲みの予定を立てた先輩がいる。そのときの私はあなたへの恋心が実るだなんて少しも思っていなかったものだから、自分からこの予定を断ることになるだなんて想像もしなかった。こんなにも可愛くて、いとおしくて、恋人として完璧なあなたのことを存分に語らなければならない。たくさん自慢してきますね。